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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第三節 蠢動 第一話 (通算第51話)
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キー粒子の影響ではなさそうだ。どうやら通信機もイカれているらしい。ジェリドは即座にハッチを開き、外に出た。頭部を見回すとモニターが死んでいた理由が解った。メインカメラは瓦礫を被って破損し、機体の殆どが埋もれている。落下時の衝撃は庁舎がクッションになったものだった。庁舎の建設資材はミノフスキー粒子対策がなされている上に防諜対策もされている。当然、受信状況は悪化する。
 外装はかなり傷ついていた。《マークU》の装甲は試作機のため、チタン複合材のままだったからかも知れない。連邦もティターンズもいまだルナ・チタニウム――通称ガンダリウム合金の量産技術を確立できてはいなかった。コクピットがショックアブソーバを装備したリニアフロートシートでなければ大怪我していただろう。
 ヘルメットを外し、右手に持つ。流星を意匠化した赤いパーソナルエンブレムが描かれたそれは、ジェリドにとって自分の存在の証である。常にエリートであること、そして自分の存在を誇示すること、それがジェリドのスタイルだった。
「こりゃ、始末書じゃ済まされんかな……」
 悪びれず、肩を竦めて無造作に降りた。
 そのままジープに乗って本部へと移動しようとする。MSも庁舎の撤去作業も、パイロットの仕事ではないからだ。カッセも疑問には思わない。が、通りかかったジープの搭乗者はそんなジェリドの態度に目に余るものを感じた。
「貴様!何をしているかっ!」
 ジェリドは最初、自分に向けられている言葉だとは思わなかった。現場では、自分よりも上の階級であれ、ティターンズに指揮権があり、顎でこきつかってきたからだ。が、声を荒げたのはブライト・ノアである。いくらティターンズは階級がひとつ上と同じ扱いであるとはいえ、相手が佐官では話が違う。
 ブライトは憤っていた。
 民間人を守るための軍隊が民間人を脅かす存在となっていることもだが、何より隣に軍事用コロニーを持ちながら民生用コロニーで試作機のテストを行う神経に、である。その挙げ句が所属不明機に付け入られ、機体を墜落させ庁舎を破壊するという失態である。そして、事実を隠蔽し、テロリストの仕業であるとでっち上げるのだ。
 加えて、この騒動で幾人かの命が失われているにも関わらず、軽口を叩いた。この事態を始末書程度で済まそうという神経が異常である。
「落ちる場所を考えろっ!味方に被害を出してどうするっ!第一、なんだって民間人の頭の上で訓練なんかやってるんだ!」
 ジェリドが大して反省しないのは、壊した庁舎がティターンズのエリアではなく、一般将校のエリアであったからだ。ジェリドは連邦軍を下部組織としてしか見ておらず、味方という認識がない。これはジェリドに限らず、ティターンズの多くが似たような意識である。が、故に由々しき問題なのであるが、当事者たちにはその認識はなかった。
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