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ゾンビの世界は意外に余裕だった
1話、研究所
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所長室でテレビの悲惨な映像を見ていたが、ゾンビ映画のことを思い出し、何か対策を取る必要性を漠然と感じた。

「キャリー、山田所長が俺に与えた権限について教えてくれ」

 パソコンをたちあげると、モニターに浮かび上がる青い星形のマークを見ながら尋ねた。研究所の中央管制を担うキャリーは、研究所のライフラインを管理したり、所員の仕事をサポートする頼れる存在だ。

『山田所長は斉藤様に所長としての全ての権限を与えています』

 俺はパソコンの画面に映るキャリーの報告に驚いた。山田所長は普段からセキュリティーに煩い人だ。てっきり外線電話の使用権限だけを高めたと思ったが、よっぽど慌てていたのか全権限を俺に移譲していったらしい。はっきり言えば先端軍事技術をスパイし放題である。……いや、もちろん今はそれどころではない。

「研究所内部には何人残っている。ああ音声モードで応えてくれ」

「分かりました。敷地内には九人います。警備員八名と斉藤様です」

 人口知能キャリーが合成音声を使って答えた。現在、研究所に残っている人員は所員である俺と民間軍事会社の八人の武装警備員だけのようだ。そうなると必然的に労働力は警備員になる。

「よくやったキャリー。今後は俺を監視カメラでモニターして、可能な限り質問に答えられるようにしてくれ」
「承知しました」

 キャリーから得た情報をもとに、俺は本館正面入り口フロアの吹き抜けの二階にある警備指令室に向かった。

「大原さん、大変なことになりましたね」

 警備指令室に入った俺は、警備主任に声をかけた。四十代の大原警備主任はがっしりした体をした生真面目な元警官のおっさんである。キャリーの報告では今日の警備員のうち、半数人が元警官らしい。

「斉藤さんは家に帰らないそうですね」

「私には家族がいませんから……、ところで皆さんはどうなんですか」

「その、私達も家族が心配です」

「そうでしょうね。うちの所長は気が動転していて、皆さんのことまで考えられなかったようです。そうだ。これからいくつか作業をお願いしますが、それが終われば皆さんも早退して頂いて構いませんよ」

「よろしいのですか」

「えー構いません」

 武装した元警官が居た方が心強いが、さすがに家族を放置させたら俺と研究所を守らせて逆恨みするかもしれない。それならいっそ恩を売った方が良いというのが俺の判断だった。

「では、何をすれば良いのでしょうか」

「まずは敷地の入り口の警備員に門を閉めるように伝えて下さい。あと、他の出入り口がちゃんと閉鎖されているか確認するように伝えて下さい」

 警備主任は指示通り動くように正門の警備員に伝えた。高さニメートルの壁に囲まれた研究所の敷地には、車の通れる正門と裏門の他に、人用の小さな出入り口が四ヶ所あった。門に関してはまず封鎖。次に補強だ。


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