第十二話 終局
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らず。
上戸が光の濁流に焼かれる瞬間、上戸が“真似た”のは東機関の新人・徳富の尋常ならざる再生能力である。東京を脱出した部下たちに、上戸は自分の細胞片を持たせていた。東京に存在する体は綺麗さっぱり消滅したが、その細胞片から再生を果たし、上戸は地獄の底から舞い戻ってきたのである。こういう能力の使い方は、能力の本来の持ち主である徳富ですらした事がない。つまり、それは厳密には物真似ではないのだが……一体なぜ成功したかは不明である。
「……地獄は私には贅沢すぎたわね」
生き返った上戸が、そう呟いていたのを遠沢は聞いた。
(……多すぎるほどの人が死んだ。こうやって人が死んで……日本は何か変わるのだろうか?副長が、許せなかった、この日本は……)
遠沢は、視線を上に向けた。ヘリはそれほどの高度では飛んでいない。近くに雲が見える。その雲の切れ間に、太陽が覗き、こちらを睨んでいた。遠沢は眩しさに目を細める。
(私たち“人でなし”は変わらず在り続けるし……その“人でなし”によってかろうじて維持される日本も、殆ど変わらないまま在り続けると思う……)
要約するとこの東京事変は、多すぎるほどの人を巻き込んだ、東機関とその裏切り者の間での内部抗争だった。しょうもないな、と遠沢は思う。裏切り者達は負けた。裏切り者達は、今を壊して未来を紡ごうとしていた。結局勝ったのは、“今”を守ろうとする東機関だった。もちろん、政府機能の殆どが消え失せた事で状況に変化は生まれるだろう。しかし、裏切り者達が変えたかった根本……それは全く変わらないだろう。いや、裏切り者達の事は良い。遠沢が気にかかるのは、やはり長岡の事だ。長岡も、最後自分の意思で荷電粒子重砲のスイッチを押したという事は、裏切り者達と同じく、“今”を壊して、未来を変えたいと思ったのでは……
そんな願いは、恐らく叶いはしないだろう。その願いの為なら、数百万人を“未来の為の尊い犠牲”として屠っても平気だと思わせる、無邪気で残忍な願いは。自分のような化け物をも“人”だと断言して憚らなかった暖かい男を大量殺戮へと駆り立てたその願いは、どうにも叶いそうにない。
日本はこれからも、このままの状態で在り続けるだろう。これだけの血を流したにも関わらず。
(長岡さん……国って、何なんでしょうか…………人の作り出した、人の為のもの……でも今はそれが人の上に在ります……変える事もままなりません……まるで、化け物じゃないですか……)
自分達のような。遠沢はそうぼんやりと思った。国は国民の為のもの、自分達“人でなし”こと東機関も“普通の人間”を守る為のもの。そのはずだが、その主従関係など、いくらでもひっくり返っている。今やそれらの人が生み出したものは、人の手をすっかり離れてしまったように遠沢には感じら
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