第百七十五話 信長着陣その九
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「それも末永くな」
「一時のものではなくですね」
「そうじゃ、末永くだ」
天下を泰平にするというのだ。
「そのつもりじゃ」
「そうですか。では」
「まだ聞きたいことがあるのか、わしに」
「そうです、貴方は何になるつもりですか」
信長の目を問うての言葉だった、馬上から。
「貴方自身は」
「わし自身か」
「神仏になろうとはしていませんね」
「ははは、わしは人じゃ」
「神でも佛でもなく」
「そうじゃ、人じゃ」
それに過ぎないというのだ、信長は自分自身を。
「一の人じゃ、それになるわ」
「一、ですか」
「そうじゃ、一の人じゃ」
それだというのだ、信長自身が成るものは。
「それになるわ」
「それ以上のものにはですね」
「なりたくてもなれぬしなろうとも思わぬ」
それはだ、全くだというのだ。
「帝の御下でな」
「朝廷に対してはですか」
「織田家は神主の出じゃ」
元は越前のそこから出ている、このことは信長だけでなく謙信にしてもよく知っていることである。
「それで何故朝廷をないがしろに出来るのか」
「では朝廷は」
「これよりもお守りしていく」
「そうですか、そのことは安心しました」
「貴殿ならわかっていると思っていたがな」
「わかってはいました」
このことはだ、間違いなくと言う謙信だった。
「既に」
「そうか、ならよいが」
「しかし私と貴方では天下に見ているものが違いますね」
謙信の話が変わった、今度はこうしたことを言ったのである。
「それは」
「そうであろうな、わしと貴殿とでは」
「私は義を見ています」
はっきりとだ、謙信は言った。
「貴方には確かに民を、朝廷を想う気持ちはあります」
「しかしか」
「あと一つ、想うものが足りません」
謙信から見ればそうなるのだ、信長は。
「私はそれを正します」
「わしを倒すことにより」
「そうです、貴方と甲斐の虎はです」
信玄、彼もだというのだ。
「正しそして」
「そのうえでか」
「私が天下を正す両輪となってもらいます」
「つまりわしに貴殿の家臣になれと」
「そうです」
信玄と共にそうなてもらうというのだ。
「そうなってもらいます」
「わしを殺さぬのか」
「貴方達はそうするにはあまりにも惜しいです」
だからだというのだ。
「私は貴方達を家臣として欲しいのです」
「そうか、しかしな」
「それにはですね」
「わしもそれではとは言えぬ」
信長は笑って謙信に返した。
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