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戦国異伝
第百七十五話 信長着陣その八

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「わしは今からそこに行くぞ!」
「はい、待っております!」
「それでは!」
「今よりこちらに!」
「船は用意しておりまする!」
「そうじゃな。では皆の者」
 信長は馬に乗ったままだった、ここまで己が率いてきた十万の大軍の方を振り向いてだった。
 彼等に対してだ、笑みを浮かべて告げた。
「今から川を渡りな」
「はい、上杉とですな」
「一戦ですな」
「行くぞ」
 そして、というのだ。
「そのうえで戦うぞ」
「はい、それでは」
「これより」
 こうしてだった、信長は彼が率いてきた十万の大軍と共にだった。
 川を渡った、対岸は柴田達が守っている。信長はここに先に向かわせていた彼等と五万の軍勢と合流した。
 上杉軍は喚声があがってから一切何も仕掛けなかった、ただ見ているだけであった。謙信はその彼等を見つつ己の将帥達に言った。
「尾張の蛟龍が来ましたね」
「はい、今しがた」
「ここに」
「今は攻めてはなりません」
 謙信はこのことは厳命した。
「ここで攻めれば武門の恥です」
「では次ですか」
「織田信長が川を渡ってからですか」
「その時にです」 
 信長がその大軍と共に川を渡り終えてから、というのだ。
「雌雄を決します」
「正面からですか」
「そうしますか」
「そうします、では今は待ちましょう」
 こう言ってだった、謙信は今は一切攻めさせなかった。そうしてだった。
 信長も十万の大軍も川を渡り終えてからだ、自軍を後ろにして織田軍に対して言った。
「織田信長、いますか!」
「その声は上杉謙信か」
「そうです!」
 まさにだ、自分自身だというのだ。
「私こそが上杉謙信です!」
「わしに何の用じゃ」
 織田軍の大軍の中からの問いだ。
「一体」
「貴方にお話したいことがあります」
 こう言うのだった。
「それが故にです」
「わしを呼ぶのか」
「そうです」
 だからだというのだ。
「よいでしょうか」
「わかった、ではな」
 それではとだ、信長も応えてだった。
 信長も出た、こうしてだった。
 両者はそれぞれの軍を後ろにして馬に乗った姿勢で向かい合った、そしてだった。黒と青がはっきりと分かれている。
 その中でだ、謙信は信長を見つつ彼に問うた。
「貴方は何を目指されていますか」
「天下を統一してか」
「そうです、一体何を」
「泰平じゃ」
 それだとだ、信長は答えた。
「天下を泰平にし民達を安んじる」
「それが貴方の目指すものですね」
「如何にも」
 その通りだというのだ。
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