第二章
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「何しろわしはロイヤル=ネービーにいたんじゃぞ」
「またえらく懐かしい言葉が出て来たな」
「ああ、ロイヤル=ネービーなんてな」
「俺歴史の授業以外ではじめて聞いたよ」
「だよな、ロイヤル=ネービーか」
「もう過去の話だな」
「全く、口の減らぬガキ共だ」
老人はまず彼等に言って聞かせることからだった、そこからしなければならなかった。
「とにかくじゃ、あの大戦の時にな」
「イタリア軍にやられたのかよ」
「そうだっていうんだな」
「よりによってか」
「そんなこともあったのかよ」
「今からその話をする、いいか」
老人はとにかく減らず口というか自分の言葉をあくまで信じようとしない彼等にこう前置きをしてそのうえでだった。
その話をした、その話はというと。
一九四一年のことだ、この時イギリス軍は苦しい戦局の中にあった。
それは海軍も同じだった。むしろ。
海軍こそが最も苦しい状況にあった、ドイツ軍の潜水艦達に散々にやられていた。ロイヤル=ネービーは苦境の中にあった。
地中海のアレクサンドリア港でもだ、それは同じだった。
「何かな、やばいな」
「ああ、ドイツ軍は今モスクワを攻めてるらしいな」
「モスクワが陥落したらソ連も終わりか」
「それでだよな」
港で水兵達が暗い顔で話していた。
「ソ連の次はな」
「また俺達だな」
「本土にまた攻めてくるぜ」
「あの時も結構危なかったしな」
「今度はソ連がいなくなるんだ」
それでだというのだ。
「俺達に全力で向かって来るからな」
「もうどうなるか」
「相当にまずいな」
「ここにもドイツ軍が来るな」
このアレクサンドリアにもだという声が出て来た。
「北アフリカでも連中暴れてるからな」
「イタリア軍はどうでもいいけれどな」
「ああ、あいつ等はどうでもいいよ」
ところがだった、イタリアについてはだった。彼等は全く以て何でもないといった顔でこう言ったのだった。
「弱いからな」
「無茶苦茶弱いからな、本当に」
「とてもここまで来られないしな」
「イタリア軍がここまで来るかよ」
「絶対ない」
「有り得ないさ」
「何があってもな」
彼等については笑って誰もが否定した、イギリス海軍の水兵達はこのアレクサンドリアにドイツ軍が来るとは思っていてもだった。
イタリア軍が来るとは思っていなかった、それも全く。それでだった。
アレクサンドリア港は苦しい戦局の中でもまだ落ち着いていた、これからのことを考えると不安ではあったが。
少なくともイタリア軍については安心していた、それは士官達も同じだった。
彼等については安心しきっていた、だが。
そのアレクサンドリア港でイタリア軍の工作員が二人拘束された、このこと自体は然程驚くことではなかっ
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