第六章
[8]前話
二本の小さな牛のそれに似た角が生えていた。彼はそれを見ながら同じものを見ているユンに言ったのだった。
「角だよ、だからな」
「やっぱりこいつ人間じゃないな」
「鬼だな、どうにも」
「じゃあやっぱりお坊さんに聞くか」
「そうしような」
とりあえずこの日二人は携帯で犯人と思われるこの女を射殺したことを報告した、骸はすぐに回収され署長から労いの言葉とボーナス、昇進を約束してもらった。そしてその次の日に。
経典と仏像を貰った寺院に行った、そうしてだった。
僧侶に女のことを細かく話した、髪の毛のことと倒した顛末と角のことも。すると僧侶は二人にこう話した。
「それは女夜叉ですな」
「夜叉ですか」
「あれがですか」
「はい、間違いありません」
その女こそまさに女夜叉だったというのだ。
「お話を聞きますと」
「あれがですか」
「女夜叉だったのですか」
「女夜叉は顔は美しいです」
それはあの女もだった、ぞっとするまでの美貌だった。
「ですが」
「ああしてですか」
「人を襲いその血を吸うのですね」
「人と擦れ違い振り向いた時に」
まさにだ、ゴーがそうした時の様にというのだ。
「その長い黒髪で絡め取りその髪の先を身体に刺して血を吸うのです」
「だからですか」
「犠牲者の身体にですか」
「無数の小さな穴があったのですね」
「そうだったのですね」
「そうです」
その通りだと答えた僧侶だった。
「女夜叉です」
「ではです」
ゴーがここまで聞いて僧侶に問うた。
「俺が助かったのは」
「はい、仏像と経典を持っておられましたから」
「それで、ですね」
「夜叉は鬼です」
その一種だ、羅刹等と同じく。
「鬼ですから」
「仏像や経典には弱いのですね」
「そうなのです、昨日はよくこちらに来られました」
「有り難うございます、お陰で助かりました」
ゴーは僧侶に深々と頭を下げて一礼した。今は屋内で帽子を被っていないので彼はそうしたのである。
「本当に」
「礼には及びません、しかし」
「しかし?」
「何時になっても鬼はいるものですね」
僧侶はここで瞑目して言った。
「今も」
「そうですね、この世にいるのは人だけではない」
「このことがよくわかりました」
二人も応える、事件は解決したが二人にとっては非常に大きな事件だった。多くのことがわかったという意味で。
女夜叉 完
2014・2・18
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