第一章
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第一章
水華
アメリカの古い話である。星辰湖のほとりにサラナク族というネイティブの部族が住んでいた。
彼等は勇敢で力強い部族であった。その中でもワヨタはとりわけ勇敢で強い男であった。
背は高く身体つきは逞しい。その力は強く素手で野牛を倒すことができた。飛ぶ鳥を掴むこともできたし湖の鰐を倒したこともあった。そうした若者だった。
精悍な顔だがその目は優しい。彼は勇者であったが心優しい勇者であった。
彼は人を愛することもできた。恋人もいた。彼女の名はオジータ。大柄なオジータとは違い小さく華奢な姿をしている。顔は儚げで今にも消えてしまいそうである。ワヨタはそんな彼女の儚げな雰囲気こそ愛し村にいる時はいつも彼女と一緒にいた。
「オジータ」
ある日彼はオジータを湖のほとりに連れてきた。湖は青く澄んでいる。その青い湖を見ながらオジータに言うのであった。
「今度の狩りでな」
「何かあるの?」
「野牛を一頭捕まえてくる」
彼はそう言った。
「それを御前にやる。いいな」
「いいえ、それはいいわ」
しかしオジータはその言葉を微笑んで拒んできた。
「野牛なんて大変よね。だから」
「じゃあ何がいいんだ?」
「これよ」
すっと足元を指差す。そこには白い一輪の花があった。指差してから優しい顔で微笑んできた。
「これが欲しいの」
「花か」
ワヨタはその言葉に微笑む。彼も優しい顔になっていた。二人は同じ微笑みを浮かべていたのであった。
「ええ。それで」
「控えめなんだな」
ワヨタはオジータのその言葉に対して言う。
「いつも」
「いいえ。私は欲張りだと思うわ」
だがオジータは自分自身をこう評してきた。
「だって。いつも、何時までもワヨタと一緒にいたいから」
「そうか」
「ええ。いつも一緒にね」
「そうだな。けれど」
ワヨタはここで暗い顔になった。嫌なことを思い出してしまったのだ。
「御前の父親は」
彼女の父親は頑固な男だった。この村の実力者でもあり他の部族との友好の為に娘を外に嫁にやろうと考えているのだ。そのことはワヨタも知っていた。
「何とかなるわ」
それでもオジータは言う。辛そうな顔で。
「だから」
「何とかするのか」
「ええ。だから安心して」
「わかった。じゃあ俺も頑張るからな」
ワヨタもまた。二人は何があっても一緒になるつもりだった。その想いは一緒だった。その想いを共有していた。心は同じだったのだ。
しかしオジータの父はそのことを知らない。ある日娘に対して言ったのであった。
「御前の嫁ぎ先が見つかったぞ」
家の中の火の前で言う。二人は向かい合って座っていた。そこで娘に告げていた。
「えっ」
「ニカルイ族だ」
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