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呪われた者
第一章
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                   呪われた者
 エジプトのアレクサンドリアに住む少女イタ=ムハンドは子供の頃からだ、その容姿が注目の的になっていた女だった。
 浅黒い肌はきめ細かく黒い瞳は琥珀の様に澄んでいて大きい。黒く長い髪は腰まであり綺麗な波を描いている。
 細面の顔は整い鼻は高く顔には彫りがある。すらりとした長身にモデルの様に整った容姿。何処に行っても人の目を惹く女だった。
 だが、だ。彼女には悩みがあった。その悩みはというと。
 よく身の周りで事故が起こる、知人が重い病気になる。こうしたことばかりが起こる。
 それでだ、ある日母に自宅でこんなことを言った、それも真剣な顔で。
「お母さん、私若しかして」
「どうかしたの?」
「何かあるのかしら」
「あんたまさか」
「ええ、私の周りっていつも何か起こるじゃない」
 こう言うのだった、その整っている顔で。
「事故があったりとか。誰かが病気になったりとか」
「そのこと前にも聞いたわね」
 母は前にも彼女からこう言われた、それでだった。
 困った顔になってだ、こう娘に言うのだった。
「若しかして自分が不幸を呼んでいるとか」
「ええ、そうじゃないかしら」
「そんな筈ないわよ」
 母は娘に馬鹿なことを言ってるわね、と顔に出しつつ言った。
「絶対に」
「そうかしら」
「そうよ、間違ってもね」
「そんなことはないわよね」
「ある筈ないじゃない。あんたに呪いがかけられているとかいうの?」
「今かなり本気でそう思ってるけれど」
「大丈夫よ、若しそんなことがあったら」
 どうなのかとだ、母は真剣な顔で娘に言葉を返した。
「お母さんもお父さんも今頃どうなってるのよ」
「どうなってるって」
「そうよ、酷い死に方してるでしょ」
「そうかしら」
「そうよ、大体事故や病気もね」
 そうしたものはというのだ。
「こう言ったら何だけれどあちこちにあるでしょ」
「交通事故も何でも」
「そう、だからね」
「そんなに気にすることないの」
「そうよ、じゃあ聞くけれど」
 自分が不幸を招き寄せているのではないかと心配になっている娘にだ、母は今度は自分から言うのだった。
「あんたと一緒にいて幸せになった人はいないの?」
「私と一緒にいて?」
「そう、あんたと一緒にいてよ」
 不幸と逆に、というのだ。
「そうした人はいないの?」
「それは」
「それ、よく見てみなさい」 
 幸運の方をだというのだ。
「そっちをね」
「事故とか病気とかじゃなくて」
「よく見なさい、そっちはね」
「いいことの方をなの」
「そう、見てみたらいいわ」
 そうしてみろとだ、母はイタに言う。
「わかったわね」
「それじゃあ」
「そう、いいわね」
「じゃあね」
 
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