暁 〜小説投稿サイト〜
七夕さらさら
第二章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「駄目ですか?」
「駄目じゃないわ」
 先生もそれは否定しなかった。
「お願いは一つだけとも限られていないから」
「そうですよね、じゃあ私間違ってないんですね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「自分のことをお願いしないなんて」
 そのことがだ、先生にはというのだ。
「先生凄いと思うわ」
「そうですか、だって私」
「そう言われたからよね」
「はい、皆のことをお願いして」
 そして、というのだ。
「織姫さんと彦星さんにいいことがあって欲しいですから」
「一年に一度しか会えない二人の為に」
「一年に一度しか会えないなんて可哀想ですよね」
 純粋にだ、愛はその二人を可哀想に思っていた。それで先生にもその純粋さを以てこう言うのである、それも強い声で。
「ですから私は」
「そうなのね、確かにね」
 先生も愛の言葉を聞いて言う。
「そう思えてきたわ」
「先生もですか」
「先生ね、実はね」
 ここでだ、先生は少し苦笑いになってこう言った。見れば長い黒髪をポニーテールにして動きやすい赤い上下のジャージ姿だ。顔はすっきりとしていて若く整ったものを見せている。化粧っ気は薄いがいい感じである。目鼻立ちは少女の面影が残っている。
「まだ結婚してないのよ」
「そうなんですか」
「ええ、だからね」
 それでだというのだ。
「ずっと結婚したいってお願いしていたけれど」
「そうなんですか」
「結婚は大事よ」
 人生において、というのだ。
「それが出来るかどうかで全然違うのよ」
「私も結婚したいですけれど」
「先生もう二十五だから」
 自分の年齢も言う。
「そうこう言っている間に三十になるから」
「三十になったら何かあるんですか?」
「色々とね。大人になればわかるわ」
「そうですか」
「だから私ずっと結婚したいって自分のことを思っていたけれど」
 それを、というのだ。
「心を入れ替えるわ、坂上さんの言う通りよ」
「じゃあ先生も」
「もう私のことは願わないわ」
 そうするというのだ。
「絶対にね」
「じゃあどういうことをお願いするですか?」
「まずは皆のことよ」
 微笑んでだ、自分が受け持っているクラスの子達のことを言うのだった。
「皆がこれからもずっと幸せになる様に」
「そうですか」
「そう、それにね」
 それに加えて、とだ。先生は笑顔でさらに言う。
「先生のお母さんの神経痛もお父さんの痔もお兄ちゃんの水虫も全部ね」
「水虫って何ですか?」
「またわかるわ」
 この病気のことはややこしくなるのでだ、先生は言わなかった。
「大人になればね」
「病気なんですね、水虫って」
「そう、先生のお兄ちゃん船乗りだけれど」
「水虫なんですか」
「その水虫も治って」
 そのお願いもす
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ