トラブル=バレンタイン
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苗は鞄の入口を開けた。そしてそこから何かを取り出した。
「お待たせ。これが今日の私からの贈り物」
「有り難う」
それはハート型のチョコレートであった。ピンクと白の紙で覆われリボンで飾られている。岳はそれを受け取った。
「手作りよ」
「嘘」
「嘘なんかついてどうするのよ」
早苗は言った。
「こんなことにまで。どうして嘘をつかなきゃいけないのよ」
「それもそうだね」
岳はそれを聞いてにこりと笑った。
「味はちょっと自信ないけれど」
「ないんだ」
「はじめてだったから。手作りのチョコなんて」
早苗は恥ずかしそうに言う。暗がりなのでよくはわからないが顔を赤らめているらしい。
「けれど。よかったら食べて」
「それだけれどさ」
「何?」
早苗は岳の様子が変わったことに気付いた。
「実はさ、俺ずっとここにいて」
「それはわかってるわ。だから御免なさいって」
謝ったのである。それは申し訳ないと思っている。
「いや、そうじゃなくてさ」
「何なのよ」
「その、ずっとここにいたからお腹が空いて」
彼は照れ臭そうに言った。
「だからね、その」
「わかったわよ、チョコレートね」
早苗にも彼が何が欲しいかわかった。遅れた手前それを断ることができないのも。
「本当はお家に帰ってゆっくりと食べて欲しかったんだけれど」
「まあ仕方ないじゃない」
岳はそう言いながらリボンを解き紙をとっていく。そしてその中からチョコレートを取り出したのであった。
「それじゃあ頂きます」
「どうぞ」
口を開けてチョコレートに顔を近付けていく。早苗はその様子をしっかりと見ていた。
「どうなのかしら」
問題は岳が何と言うかである。美味しいかまずいか。それを注視していた。
チョコレートを噛んだ。そして割って口の中に入れる。そのままモグモグと噛みはじめた。
「どうかしら」
「うん」
彼は一口飲み込んだ後で答えた。
「美味しいよ」
「本当!?」
それを聞いた早苗の顔がパッと明るくなる。
「うん。甘いしまろやかだし」
「ミルクをたっぷり入れたから」
「そうだったんだ。いや、こんな美味しいチョコレートはじめてだよ」
「そんな」
「本当に。何か凄く嬉しいし」
「うふふ」
「よかったらさ、また作ってよ」
「また!?」
「うん、よかったらさ」
「駄目よ」
しかし早苗はそれを断った。
「何で?」
「これは年に一度よ。それ以外は駄目なの」
バレンタインであるからこれは当然のことであった。
「そんな、それじゃ」
「他のものでいい?」
「他のもの?」
「チョコレートは年
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