トラブル=バレンタイン
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げた。
「それじゃあ行って来るわ。彼のもとへ」
だがお地蔵様は何も言わない。そもそもバレンタインにお地蔵様は幾ら何でもお門違いである。だがそれでも何故か御礼を言った。言わないといけないと思ったからだ。
頭をあげるとやはりにこりと笑っていた。鞄を手に今度はゆっくりと歩いていく。夜道に気をつけながら。
お地蔵様はそんな彼女に対して顔を向けることはできなかった。ただそこに立っているだけである。
だがそれでも早苗にはお地蔵様の心がわかったような気がした。そしてそのままそこにたたずんでいた。
その頃岳は公園のブランコに座っていた。そして一人早苗を待っていたのであった。
「遅いなあ」
公園の時計を見ながら呟く。それは噴水の中央に立っており闇の中に一つだけ立っていた。
彼はずっとその時計を見ていた。そして不安げな顔でブランコをキコキコと鳴らしていた。その小さな音が彼をさらに不安にさせるのであった。
「すっぽかした、なんてことはなあ」
不安げなまま呟く。
「あいつに限って」
早苗の性格はわかっているつもりであった。それでも一人で寂しい公園にいるとやはり考えてしまう。
何かいたたまれなくなって席を立つ。そして辺りを歩き回った。
公園には彼の他は誰もいない。ただ夜の濃紫の世界と公園の外の家々の灯かりが見えるだけである。
その家々の中は温かいのだろう。家族の笑い声が聞こえるようであった。それを思うと何か今度は寒くなってきた。
「まだかな」
また呟いた。吐く息が白くなっていた。
ブランコからシーソーの方へ歩いていく。そしてそこから公園の入口を見る。だがやはり誰も来そうになかった。
そのまま入口を見ているがやはり誰も来ない。岳はそれを見て不安さをさらに増していった。
「来るのかな」
また時計を見る。もうすぐ八時だ。これだけ待ったことは流石に今までなかったことだった。
ふと諦めて帰ろうかと思った。これ以上待っても来ないかもしれない、そう思いはじめた時だった。
不意に入口に誰かが姿を現わした。見ればスカートを履いている。
「まさか」
岳はそれを見て早苗かと思った。その影は公園に入りこちらに向かって来る。
「早苗ちゃん?」
「待たせて御免なさい」
この言葉でわかった。彼女に間違いなかった。
「ちょっと色々あって。それで」
「訳はいいよ」
彼はこちらにやって来る早苗に対してこう言った。
「それよりも。来てくれたんだね」
「当たり前でしょ」
彼女は言葉を返してきた。
「今日はこの日の為にあるんだから」
「そうだったね」
岳はその言葉を聞いてにこりと笑った。
「それじゃあ」
「ええ」
早
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