第六章
[8]前話
「お頭、どうやらですか」
「風狼は」
「よい」
頭領は彼等にも簡潔の答えた。
「わかっておる」
「では風狼は」
「そのとがで」
「それもよい」
彼についてもというのだ。
「こうなることはわかっていたからな」
「あ奴が雷獣を殺めぬこと」
「それも」
「抜け忍は消えればよい」
この世から、というのだ。
「それに殺せぬ者を差し向けたのはわしだからな」
「だからですか」
「この度のことは不問にしますか」
「そうする、あ奴は雷獣を始末した」
そうすることにするというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「その様に」
「しかし、抜け忍は多くが山に消えるな」
雷獣だけではないというのだ、それは。
「天狗か鬼にでもなるのか」
「どうやら山の奥で山人として生きるのやも」
上忍達は頭領にこのことも話した。
「あくまで我等の見立てですが」
「そうやも」
「山人のことはわしも聞いておるがな」
「古より密かに山におるとか」
「詳しいことは我等も知りませぬが」
「山には山の世がある」
忍に忍の世がある様にだ。
「それと同じじゃな」
「はい、そうですな」
「あの者達の世が」
「山人のうちの幾分かは抜け忍であるか」
雷獣がそうなった様にだ、もっともこのことは忍である彼等とて確かめ様がないことであるが。
「混ざって生きておるか」
「そうやも知れませぬな」
「その辺りまではわかりませぬが」
「そうじゃな、ではこのことはしまいじゃ」
これで、というのだ。
「雷獣は死んだ、よいな」
「はい、では」
「お頭がそう仰るのなら」
上忍達も頷いて応えた、こうして雷獣は抜け忍として殺されたことになった。
雷獣を見た者はこの時から一人もいなかった、だが安芸今の広島県には面白い話が残っている。その奥深くに木と木の間を飛ぶ天狗が出ていたというのだ、そしてその天狗の顔には傷があったという。まことかどうかはわからない、だが山人即ち山窩が天狗の正体だったということは言われている。このことが雷獣と関わりがあるかどうかはわからないが。
死んだ身 完
2014・4・25
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