ダプニス
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彼は遊ぶだけだと思っていたのだ。エケナイスの本当の気持ちには気付いていなかった。そしてパーンも弟のそんな様子にはやはり気付いてはいなかったのであった。これは彼の迂闊であった。
「それじゃ行こう」
「はい」
二人は野原に向かった。そしてそのまま飽きるまで唄い、遊ぶのであった。それは次の日も続いた。その間エケナイスは幸せであった。新しい恋に入ることができたと思えたからだ。彼女は来る日も来る日も彼と共にいた。そしてその側で歌い、踊り、遊んだ。彼女は幸せの中にいた。彼を心から愛するようになっていた。もう離れたくはないと思う程にまでなっていた。
暫くはダプニスはいつもエケナイスと共にいた。しかし彼はここであることに気付いた。
「ねえエケナイス」
彼はふと歌を止めて彼女に声をかけてきた。
「はい」
「僕達最近いつも一緒にいるよね」
「はい」
さっきと同じ答えであったが顔が微かに赤くなっていた。
「何かね。いつも一緒だね」
「そうですね」
「これだとよくないんじゃないかな」
彼は何も考えずにこう言った。
「えっ!?」
「だってさ。いつも一緒ってことは自由に動けないじゃない」
彼は自由が好きだった。悪気は全くなかった。自分の大事なものを出しただけであった。
「それだとよくないよ。やっぱり自由に動き回らなくちゃ」
「ダプニス様」
エケナイスはそれを聞いて悲しい顔になった。
「私と一緒にいるのがお嫌ですの?」
「そういうのじゃなくてね」
やはり深くは思っていなかった。
「自由にいないと。唄ったり遊んだり好きにできないじゃない」
「私はずっと一緒にいたいのですが」
その声は震えていた。見れば顔も強張っていた。
「それがよくないんだって」
しかし彼はまだわからなかった。
「ほら、いつも一緒にいるとさ。君も僕もそれだけ一人でいられなくなるじゃない」
「私は一人は嫌」
「何で?一人でいると気楽だよ」
これがどれだけ残酷な言葉か彼にはわかっていなかった。彼にとって一人でいるということはそれだけ自由であるということなのであるから。エケナイスの気持ちにも気付いてはいなかった。
「だから。離れたりもしようよ」
「そんな・・・・・・。酷い」
「酷くないって。全部君の為にもなるからさ」
彼はエケナイスの涙を見た。だがそこにあるものは見えてはいなかった。
「だからさ。僕は離れるよ」
「えっ」
「また遊ぼうね。それじゃあ」
ダプニスはそう言い残すと駆けて言った。そして何処かへと姿を消してしまったのであった。まるで風の様に軽やかな足取りで。
「・・・・・・・・・」
エケナイスはその場に呆然と立っていた。野原の
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