ダプニス
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た。
「凄いものだ。日に日に上手くなっている」
「だって毎日吹いているから」
ダプニスは屈託のない顔で兄に答えた。
「自然と上手くなるんだ。それに笛を吹くことが楽しくて仕方がないんだ」
「そうか、それはいいことだ」
兄はそれを聞いて目を細めさせた。
「好きなもの程上手くなっていくからな」
「うん」
「どんどん吹けばいい。そして山も原も歌で埋め尽くそう」
「そうしよう、兄さんと僕で」
そんな話をしていた。そこへエケナイスがやって来たのである。
「あの」
彼女はおずおずとした様子で二人に声をかけてきた。
「君は?」
最初に気付いたのはダプニスだった。彼はすぐに彼女に声をかけた。
(この人と)
エケナイスは心の中でこう呟いた。見れば自分より年下である。まだ幼さが残る。それでも一度見たら忘れられない美しさだった。今まで何度も見ているがあらためて側で見るとその美しさが一際映えた。
「どうしたんだい、エケナイス」
今度はパーンが声をかけてきた。気さくな物腰であった。
「パーン様」
「色々あったそうだけれど元気になったみたいだね」
「はい」
失恋した彼女のことを気遣ったのである。
「まあ長く生きていればどんなことでもあるから。気にしないようにね」
「有り難うございます」
やはり彼は優しい神であった。彼女にもいたわりの言葉を忘れなかったからだ。
「それでどうしてここに来たの?」
今度はダプニスが声をかけてきた。あどけない様子の声であった。
「実は歌を唄いたいと思いまして」
「歌を」
「はい。ダプニス様と二人で。宜しいでしょうか」
「僕は構わないよ」
ダプニスは彼女の気持ちには気付いていなかった。いつもの遊びと同じと思い何の疑いもなくこう答えた。
「それじゃあここで唄う?それとも別の場所で?」
「別の場所で」
彼女は消え入りそうな声で答えた。
「お願いできますか?」
「うん、いいよ」
彼はやはり疑うことなく頷いた。
「それじゃあ何処がいい?」
「野原で」
彼女は言った。
「そこで。二人で歌いましょう」
「それじゃ僕は席を外すか」
事情を察したパーンはこう言って立ち上がった。
「二人でね、ゆっくり楽しんだらいいよ」
「有り難うございます」
エケナイスは彼のそうした心遣いが嬉しかった。頭を深く下げて礼を言う。
「ゆっくりとね、ダプニス」
「うん、兄さん」
「エケナイスも。楽しんだらいいよ」
「すいません、本当に」
「何、いいってことさ」
気さくに笑うパーンだがダプニスはここで勘違いをしていた。
「二人で遊んで来るね、兄さん」
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