第六章
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そのうえでだ、こう言ったのだった。
「ここにおってもな」
「はい、ただ朽ちるばかりですな」
「それで終わってしまいますな」
「若しやするとじゃ」
徳川の世は定まろうとしている、しかしだというのだ。
「また戦が出来るやも知れぬ」
「そしてその時にですな」
「遂に」
「わしは戦の場で死にたい」
例え僧侶の姿になってもだった、彼はやはり武士だった。
武士としてだ、そうしたいというのだ。
「だからな」
「では薩摩にですか」
「行かれますか」
「そうしよう、この申し出受ける」
三好からのそれをというのだ。
「是非もない」
「そのお言葉感謝致します」
三好は笑顔で頭を垂れてだ、又兵衛に応えた。こうしてだった。
又兵衛と家臣達は三好と共に薩摩に向かいそこで時を待つことにした、だが。
その前にだ、彼は文次郎達にこうしたことを言った。
「しかしここで住んでいた時もそれなりに長かった」
「ですな、馴染みはありますな」
「それなりによい場所でしたな」
文次郎達もこう又兵衛に応えた。
「身を潜めていたとはいえ」
「それでも」
「世話になった」
宇陀の奥、ここにはというのだ。
「だから少し置き土産を置いておこう」
「といいますと」
「何を」
「うむ、それはな」
又兵衛は立ち上がりだ、そのうえで。
三好や文次郎達と共にだ、外に出てだった。
そしてだ、その場に木を植えた。その木はというと。
「桜ですな」
「うむ」
共に植えた三好の言葉に答える。それはまだ小さな桜の木だった。
その小さな木を前にしてだ、こう言ったのである。
「これを置き土産にしておく、この場へのな」
「この桜はまだ小さいですが」
「やがて大きくなり咲き誇る」
だからだというのだ。
「この桜をここにいる者達、来る者達が見て楽しめば何よりじゃ」
「よい置き土産ですな」
三好は又兵衛のその心と桜を見て述べた。
「流石は後藤殿」
「褒めるには及ばぬ、わしはもうここを発つ」
又兵衛はその三好にこう返した。
「ではな」
「はい、では今より」
「薩摩に案内してもらおう」
「それでは」
三好も応えそうしてだった。
又兵衛は三好、そして文次郎達と共に薩摩へと発った。彼等は振り返ることなく遠い国へ旅立ったのだった。
後藤又兵衛基次は大坂の陣で死んだとされている、だが大和の国で死んだという言い伝えもある。真相はわからない、若しかすると大和から薩摩に向かいそこで時を待ちつつ死んだのかも知れない。薩摩、今の鹿児島県には豊臣秀頼や真田幸村達が落ち延びたという伝説が実際に残っている。又兵衛もそうかも知れない、そうしたことを思いここに書いた。又兵衛という武士のことが一人でも多く世の人に知られれば幸
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