第三章
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「ここならです」
「うむ、人も少ないな」
「はい、この辺りはかつて平家の隠れ里でもあったそうなので」
「ここに身を潜めてな」
「はい、待ちましょう」
時をというのだ。
「そうしましょうぞ」
「そうじゃな、ここがよいであろう」
又兵衛も文次郎の言葉に頷いた、そしてだった。
主従は宇陀に隠れ時を待った、身分は僧侶ということにして名を偽り時を待った。それから暫くの歳月は流れた。
その中でだ、僧侶の服を着ている又兵衛は彼と同じく僧侶ということになっている家臣達にこう問うたのだった。
寺の中だ、一行はそこに住んでいる。自分で田畑を耕し時には布施に出て生きている。その中で彼等に問うたのだ。
「時が来ると思うか」
「再びですか」
「戦となる時はですか」
「うむ、来るのかのう」
こう問うたのだった。
「その時は」
「徳川の世が定まってきているというのですな」
「うむ、そう思えてきた」
又兵衛は難しい顔で述べた。
「あの戦の後でな」
「それは」
文次郎が難しい顔で主に述べた。
「豊臣家も滅びましたし」
「そうじゃな」
「秀頼様はご自害なされたとか」
「真田殿も木村殿も死なれましたな」
「残っておるのはわし等だけではないのか」
難しい顔で言う又兵衛だった。
「最早な」
「だからですか」
「うむ、もう時は来ないのか」
彼が再び戦の中に入る時はというのだ。
「そして死ぬにしてもじゃ」
「戦の場ではなく」
「ここではないのか」
今こうして隠れている大和の奥で、というのだ。
「そう思えてきたが」
「それは」
文次郎もだ、今はだった。
難しい顔になった、そしてこう主に言うのだった。
「申し訳ありませんが」
「やはりそう思うか」
「あの時は殿に生きて欲しかったのです」
これは他の者達もだ、だから大きな怪我を負っていた主を救ったのだ。
「それがかえって殿を苦しませていますか」
「いや、よい」
自分を生かしたこと、それはと返した又兵衛だった。髪は剃り完全に僧の姿だ。その姿で自分と同じく髪を剃っている文次郎達に述べたのである。
「御主達の心はわかっておる」
「左様ですか」
「だからよい、それにじゃ」
「それに?」
「これも天命じゃ」
こうして今生きていること、そしてだというのだ。
「このままここで朽ちるとしてもな」
「それもですか」
「天命じゃ」
そうではないかというのだ。
「ならば受けようぞ。天命ならな」
「左様ですか、それでは」
「ここで朽ちるのなら朽ちようぞ」
こう言ったのだった、文次郎達に。
「そうするわ」
「そうなのですか」
「うむ、そう思うわ」
こう言ってだった、又兵衛は寺に僧侶として生きそのまま死のうと覚悟を決めた
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