第六章
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第六章
「僕のことを。ずっと前から」
「それで」
女の子はさらに言う。
「あの、私でいいですか?」
「君でいいってことは」
「好きです。ですから」
こういうことであった。当然ながら彼としては断る筈もなくこの言葉を受けた。こうして彼は彼女ができた。だが地味だった自分を見ていたということは驚きでこのことも母親に話した。場所はやはりリビングで母はその話を笑いながら聞いていた。
「まずはよかったじゃない」
「彼女ができたこと?」
「可愛い娘なんでしょ?」
こう彼に問うてきた。
「彼女ができてしかもそれが可愛い娘なんでしょ」
「うん、そうだけれど」
事実なのですぐに母に言葉を返した。サワディーを膝に寝かせてそのうえでガラスのコップに入れたコーラを飲みながら台所で洗いものをしている母に答える。
「だったら最高じゃない。それでまだ何かあるの?」
「ありはしないけれど」
あるわけではないのである。
「ただね。それでも」
「それでも?」
「僕のことをずっと前から見ていたなんてね」
コーラを飲んだ後で顔を見上げて言う。
「あの地味だった僕に」
「けれど格好よくなったから告白されたのよね」
「それはね」
それもその通りであった。
「けれど。あの時の僕も見ていたんだ」
「お母さんもそれはないだろうと思ってたわ」
何と母もそれは同じだった。
「けれどよかったじゃない」
「よかったの?」
「あんたその娘で満足してるでしょ」
「満足しないわけないじゃない」
彼は少しムキになった調子で言葉を返した。女の子が周りにいるようになっても寂しいものを感じてもいた。それがどうしてかもわかってそれで今その彼女ができたのだ。それで満足していない筈がない。
「それはね」
「そうよね。けれどそれでもなのね」
「あの時の僕を見ていたなんてね」
今度は首を捻っての言葉だった。
「そんな筈ないって思っていたけれど」
「つまりこういうことね」
母は洗いものを終えて今度は食器を拭いていた。丁度ガラスのコップを抜いている。
「ダイアモンドあるわよね」
「うん」
「ダイアは最初から輝いているわけじゃないのよ」
よく言われる言葉だがこの母も今そのことを言うのだった。
「磨いて磨いて。それで輝くようになるのよ」
「つまりあれ?」
光臣も当然の如く母が何を言いたいのかわかった。この話が出れば誰でもわかる。
「あの時の僕は原石だったってこと?」
「そういうことよ」
そのことを実際に彼にも話す。
「あんたは原石で」
「うん」
「その娘はその原石がダイアだって見抜いていたのよ。最初からね」
「そういうことだったんだ」
「それでダイアになったあんたに告白した」
コップを拭きながら話す。
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