第六章
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その怒りの炎を漂わせたまま二人のところに来て、そうしてだった。
修一は家に帰ってからだ、女房の美沙子にこう言ったのだった。
「痛かったぜ」
「あら、左の頬が」
「やられたよ」
見れば左の頬が思いきり腫れている、まるで重度の虫歯になったかの様に。
「一発で済ませてくれたけれどな」
「悪戯は成功したのね」
「全部成功したよ、けれどな」
「そのお礼でなのね」
「殴られたよ」
西郷にというのだ。
「凄い一撃をな」
「歯は折れなかったの?」
「歯をくいしばったからな」
最悪の事態は免れたというのだ。
「俺も会長もな」
「それはよかったわね」
「まあな、けれどな」
「悪戯が全部成功してなのね」
「そのお礼で殴られたよ」
「そうなのね」
「ああ、洒落にならない一撃だったよ」
まさにというのだ。
「会長も痛かったって言ってるぜ」
「けれどどうだったの?」
美沙子は夫の話が一段落したところで亭主に問うた。
「楽しかった?」
「ああ、あの人が帰ってからあてがった女から話を聞いたけれどな」
「動画は録画しなかったの」
「あの人自分が撮影されることは嫌うんだよ」
このことも何処かの誰かのままだ。
「それでなんだよ」
「撮ってはいないのね」
「そうだよ、それはな」
「だからお話を聞いただけなの」
「そうだよ、けれど話を聞いてな」
それでだというのだ。
「腹抱えて笑ったよ」
「楽しかったのね」
「最高だったよ」
そこまで楽しかったというのだ。
「生まれてあれだけ笑ったことはなかったな」
「じゃあ楽しめたのね」
「最後は殴られたけれどな」
だから頬が腫れているのだ。
「相当に痛かったよ、けれどな」
「それでもなのね」
「笑えたからな、だからな」
それでというのだった。
「今回の御前の提案はよかったな」
「それなら何よりよ」
美沙子は夫の言葉に笑顔で応えた、彼女としても自分の提案が夫も夫だけでなく自分も世話になっている会長も楽しんでくれて何よりだった。ヤクザ者はヤクザ者で悪戯をすることもあるということであろうか。それをする相手はともかくとして。
殺し屋いじめ 完
2014・2・26
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