第三章
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「異伝はあるけれどな」
「顔とかが一緒とかな」
「それなら信じられるだろ、いや」
「いや、か」
「そうとも限らないか」
「まあな、志賀直哉の小説でもあった話だよな」
「怖い話なんでな」
そうした話の中でも特にと言う吉沢だった。
「言わないでおこうな」
「お互いにな」
「まあとにかくな」
「遺伝でもだよな」
「確実とは言えないからな」
同じ顔で同じ身体の特徴があってもだ。
「例えば自分が両方左手でな」
「産まれた子供がそうでもな」
「自分の子供とは限らないからな」
「そう思うと男って本当に損だな」
「けれどDNA鑑定ならな」
「ああ、殆どな」
百パーセントとは出ない、だがそれでもだ。
「九十九・九パーセントだからな」
「ほぼ確実だな」
「ああ、出て来るからな」
「信じられるな」
「早く結果が出て欲しいよ」
心から言う昌也だった、そうして。
今はとにかく鑑定の結果を待った、そうしてその一月後が遂に来た、彼は自分の家に送って来られた封筒をすぐに自室に持って行って開いてだった。
その結果を見て天国に登る様な笑顔になった、その次の日だった。
出社してすぐにだ、吉沢に甲子園の優勝投手の様な顔でこう言った。
「結果出たぜ」
「その顔と様子だとな」
「ああ、俺の子供だったよ」
満面の笑顔での言葉だった。
「本当にな」
「そうか、よかったな」
「千和子は俺の子供だったんだよ」
「鑑定の結果ではっきり出たんだな」
「九十九・九パーセントな」
そうだったというのだ。
「そう出ていたよ」
「なら間違いないな」
「これでほっとしたと」
「それは何よりだ」
「今日は祝杯を挙げるぜ」
満面の笑顔でまた言う彼だった。
「乾杯だ、一緒に飲むか?」
「そうだな、じゃあ居酒屋に行ってな」
「飲んで食うか、祝いにな」
「御前にとっていいことだ、だからな」
「だから。何だよ」
「今日は俺が奢るな」
吉沢は微笑んで昌也に言った。
「好きなの飲んで食え、金のことは気にするな」
「悪いな、何か」
「遠慮するな、折角のハッピーエンドだからな」
「それでか」
「そういうことだ、今夜な」
「ああ、お祝いでな」
祝杯を挙げるという話になった、吉沢の金で。
それで昌也はこの夜吉沢の奢りでしこたま飲んで食った、最高の気持ちで家に帰ることが出来た。まさに最高のハッピーエンドだった。
その気持ちのまま家の玄関の扉を開いた、だが。
家に帰るとだ、妻の麻美子が待っていた。薄茶色に染めた髪を長く伸ばし前髪は綺麗に切り揃えている。白い細面に切れ長の目と黒い綺麗な瞳を持っている。昌也の自慢の妻でもある。
普段は非常に優しく穏やかな性格である、顔立ちも温和だ。
しかしその妻
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