第一章
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妻の怒り
岬昌也はこの時悩んでいた、もっと言えば疑念に思うことがあった。
それは彼と妻の麻美子の間に産まれた娘の千和子のことだ、千和子は父親である彼の目から見ても非常に可愛い。
だがその可愛い顔を見てだ、彼はこう思う様になっていた。それを会社の合間に喫煙室の中で同期の吉沢健太に言ったのである。
「娘の千和子だけれどな」
「どうしたんだよ、急に」
「いや、本当に俺の子かってな」
そう思っているとだ、その面長の顔を不安にさせて言うのだった。
「思うんだよ」
「おいおい、その言葉だとな」
吉沢は煙草を吸うその手を止めて昌也に言った、昌也のその面長で丸めの目で広い額を持っているその顔を見ながらだ。
「奥さんが浮気してるってなるぞ」
「そうだよな」
「ああ、若し娘さんが御前の子供じゃないとするとな」
「そうなるよな、やっぱり」
「確かにな、夫婦をやってるとな」
吉沢も家庭を持っている、妻との間に二人の男の子がいる。その夫であり父親でもある立場から言うのだった。
「そうしたことを考えることもな」
「あるよな、やっぱり」
「一度位はな、逆の場合もな」
「俺の浮気もか」
「ああ、奥さんもまさかって思うかも知れないさ」
それもあるだろうというのだ。
「けれどな」
「娘が俺の子じゃないとかはか」
「そうそうないだろ」
「いや、何かクラスで一人位の割合でな」
つまり四十人に一人位の割合である。
「実は、ってことがあるらしいんだよ」
「それ本当か?」
「ああ、らしいな」
「それはまた怖い話だな」
吉沢は昌也の今の言葉に眉を顰めさせて返した。
「男にとってはな」
「ああ、だからな」
「娘さんが御前の子供じゃない」
「その可能性もあるだろ」
「そう言われると否定出来ないがな」
「なあ、本当に千和子が俺の子供じゃなかったら」
どうかとだ、昌也は親友に思い詰めている顔で問うた。
「どうしようか」
「どうしようかってな」
「俺の娘であって欲しいよ」
彼の偽らざる本音である。
「絶対にな」
「誰だってそう思うさ」
父親ならだ、吉沢も言う。
「そうな」
「そうだよな、けれどな」
「どうしても気になるか」
「確かめようか、俺に全然似てないからな」
自分の顔に、というのだ。娘は母親似なのだ。
「血液型は同じだけれどな」
「今時血液型じゃな」
「わからないだろ」
「それはな、じゃあな」
「それじゃあ?」
「もうそこまで気になるのだったらDNA鑑定してもらえばいいだろ」
これが吉沢の提案だった。
「それこそな」
「DNAか」
「そもそもそのクラスの一人かっていうのもな」
そうしたことがわかったことも、というの
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