七十六 盲目の忍び
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たとえ、炎の使い手であっても。
「イタチ……ッ!!」
手を伸ばす。
自らの身体が焼けるのも厭わず。
目の前の人影へ。
じゅうう…と肉の焼ける匂いが鼻につく。
まやかしではない。正真正銘の炎がナルトの腕にまで舌先を伸ばす。
印を結ぼうとするが、それを見越していた鴉が邪魔をする。その上、炎の勢いが激しすぎて水面を覆う水蒸気。
霧の如き白い靄が湖一面を包み込む。足下で水飛沫が飛び散った。
「イタチ…ッ!!」
手を伸ばす。
焼けつく炎。咽返る熱気。
名を呼ばれ、黒炎の中で影が僅かに身じろいだ。
伸ばされた手に一瞬だけ指が触れる。それは既に焼け爛れ、酷い熱を帯びていた。
すぐさま烈火から引き摺り出そうとするが、それより先に引っ込められる、右手の薬指。
チリチリと焼ける艶やかな黒髪。辛うじて保たれる顔。
唇が何かを紡ぐ。
そして…………。
「イタチ―――――――――――――――ッ!!!!」
蒸気が細かい雨となって降り注ぐ。
低く立ち込めた霧の中、彼は立ち竦んでいた。
肩に降り注ぐ霧雨。頬を撫でる水滴が金の露と消えてゆく。
焼け爛れた腕をそのままに、彼は俯いていた。
あちこちで立ち上る黒炎。下火と化し、やがて鎮まる。
頭上で鳴く鴉の声が酷く遠くに聞こえた。
「…………イタチ………」
ナルトの掌に残ったのは――――。
『暁』の証である指輪の朱。そして艶やかな黒髪の一房。
ただ、それだけだった。
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