第一章
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第一章
原石とダイア
「もてたいなあ」
江崎光臣は不意にこんな言葉を出した。
「やっぱり。もてたいな」
こうしたことを言う人間はもてない。世の中の絶対の摂理の一つである。そう、彼は生まれて十七年になるが彼女がいたことも告白されたことも全くないのだ。よくある話ではある。
クリスマスはいつも一人でバレンタインは義理チョコだけである。とにかくもてない。外見は一応普通で背も低くはないがどれも平凡だ。成績もスポーツも何もかもが平凡だ。そう、彼は完全な凡人だったのだ。
「あれ、江崎いたっけ」
「何時の間に?」
よくこんなことも言われる。
「御前とにかく目立たないからな」
「だから忘れた。悪い」
「あれ、一人多いって思ったら」
「江崎君だったの」
このように忘れられるのもしょっちゅうだ。とにかく目立たないからもてないのだ。ある意味これ以上はない程に悲しい話である。
しかしそんな彼でもやはりもてたいと思うのだ。しかし思っているだけでは駄目だ。とにかく何かしなければ話にならない。そう考えていた矢先だ。
「うわっ」
家のソファーでうつ伏せに寝て漫画を読んでいると急に背中に何かが乗ってきた。
「何なの!?いきなり」
「ってあんたいたの」
母親の声がした。
「気付かなかったわ、御免ね」
「お母さん・・・・・・」
乗ってきたのは母親だった。乗ってきたというより背中に座ってきたのだ。彼が驚いた声をあげたのでそれでやっと気付いたのである。
「何処にいるかわからなかったのよ」
「何でなの?」
「だってあんた目立たないじゃない」
素っ気無い調子で彼に言うのだった。
「だからよ。御免なさいね」
「目立たないって」
彼はそのソファーから起き上がりながら向かい側のソファーに座る母親に対していささか抗議めいた目を向けながら言うのだった。
「お母さんまで言うの?」
「目立たないのは事実じゃない」
しかし母親はそのことを否定しもしない。
「そうでしょ?じゃあ聞くけれどあんたこれまで目立ったことある?」
「ないけれど」
答えるその声がうんざりとしたものになっていた。
「それは」
「ほら、ないでしょ」
ここで母親の足元に家で飼っている猫が来た。銀のペルシャだ。
「サワディーちゃんだってあんたが御飯あげても気付かないでしょ」
「っていうか声かけられたことないけれど」
そのサワディーというペルシャ猫は母親の足に顔をすりすりと擦り付けている。実に猫らしい動作である。
「それって家だと」
「あんただけよ」
母親の言葉はここでも容赦がなかった。
「典子も帰ったら声かけられてるのに」
「お姉ちゃんまで」
彼には姉がいる。しかし大学進学で家を出て今は
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