第二章
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第二章
この店の看板は料理とこの二人であった。この姉妹は双子である。
店の娘でいつも二人一緒である。その幻想的な可愛らしさで客達を見事に引き寄せているのであった。
「イレアナとナディアは自慢の娘さ」
二人の父でもある恰幅のいい店のマスターがいつも言う。
「どうだい。俺に似ずに可愛いだろう」
「まあそうだね」
「それだけは凄いよ」
地元の仲間達はよくこう彼に言葉を返す。
「お袋さんに似ているな」
「そうだよな」
マスターはいつも笑顔でその言葉に返す。
「髪は白くて肌が奇麗で」
「本当にこの世のものに思えないさ」
「しかも双子ときた」
ここも大きかった。
「二人並んでいると本当に」
「この世にあるとは思えないよな」
「そうだろそうだろ」
赤ワインを飲みながら笑顔で頷くマスターであった。仕事が終わった後は飲み屋で一杯、というのはこのトランシルバニアでも同じことである。
「だから店の看板なんだよ」
「羨ましいなあ」
「俺もあんな娘が欲しいよ」
「娘が貰えるのは運さ」
マスターはその運を確かめながら述べた。
「運があると可愛い娘がやって来る」
「じゃああんたはとびきりの幸運だな」
「羨ましいっていうかな」
「ははは、羨ましいか」
しかもその言葉に機嫌をかなりよくさせる。
「それは結構なことだよ」
「じゃあさ、マスターよ」
マスターというのが皆からの仇名にまでなっている。
「ちょっとは幸運分けてくれよ」
「せめてワイン一杯分でもな」
「だからそれも偶然なんだよ」
実際に運というものは偶然そのものである。ある時急に向こうからやって来るものである。これが幸運だけならいいのだが不運もそうだ。望むものが来るのもまた偶然なのである。
「それはわかるよな」
「わかりたいものか」
「まあ俺達も偶然ここに生まれたしな」
この時代のトランシルバニアに。これもまた偶然なのは事実である。
「それを考えると」
「本当に世の中ってのはわからないもんだよ」
「あの時代のここには生まれたくはないな」
「ああ、それはな」
これには皆頷く。ドラキュラ公はあまりにも残虐な人間だったからだ。貴族や外敵だけを血祭りにあげていたのではないのだ。盗人を一族郎党嬲り殺しにしたこともあるし社会的弱者を屋敷の中に閉じ込めて焼き殺したこともある。これについてはそういう時代であり当時ではよくあったことであるがそれでもドラキュラ公の残忍さは特筆すべきものだったのだ。人をじっくりと時間をかけて残虐に殺すことを楽しんでいたのは事実なのだ。
「じゃあ俺達も運がいいな」
「そうだな」
マスター以外の者達も自分達が幸運だと思うようになってきていた。
「今ここにいることが」
「それに満足しておくかな」
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