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蜀碧
第五章
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「息子や妻、妾達もだ」
「まさか」
「あの方々も」
「殺せ」
 家族もというのだ。
「よいな」
 酒に酔って言うのだった。
「皆殺せ、いいな」
「さ、左様ですか」
「ご家族も」
「すぐに殺せ」
 こう言って遂に家族まで殺させた。だが次の日。
 彼は家族を呼んだが誰も来なかった、それでここでだった。
 昨日酒を飲みながら言った言葉を思い出してだ、怒り狂って周りの者達を呼んでこう叫んだ。
「何故昨日わしを止めなかった!」
「し、しかし」
「殺せと申されましたので」
「それで殺したのですが」
「駄目だったのですか」
「そなた達が止めなかった罪は重い」
 止めても殺したがそれもまた、というのだ。
 そしてだ、その場で剣を抜いてだった。
 彼等の首をその場でことごとく刎ねた、そして血の海の中でその生首達を見てから空を見上げて高笑いした。
「ざまを見るのだ」
 こう言うのだった、そこから目に入った周りの者を全て殺させた。
 そうしたことが相次ぎだ、遂に四川には人がいなくなった。三百万いたという四川は一万数千しか人がおらず獣の棲む場に成り果てていたという。
 これが張献忠のしたことだ、だが。
 この話についてだ、魯迅は若い書生に対してこう言ったのだった。
「私もこの話に興味があり読んだが」
「張献忠についての書をですね」
「そうだ、読んだがだ」
 それでもだというのだ。
「君も読んだ様だがどう思うか」
「恐ろしいですね、ここまで殺すことを楽しんだ者がいたとは」
 書生は率直に己の意見を述べた。
「信じられません」
「そうだ、信じられないな」
「とても」
「私も同じだよ」
 魯迅は書生にこう言うのだった。
「とてもな」
「と、いいますと」
「そもそも張献忠は戦ってもいた」
「梁紅玉とですね」
「彼女は強かった」
 明代末期に滅びようとする明を支えんとして必死に戦った、清が倒れた今では女傑として愛されている。
「その彼女と戦うにだ」
「そうした殺戮に夢中になってはですね」
「逆に攻められていた、清もいたのだからな」
「そうですね、どう考えても殺すことに夢中になっていますから」
 そうした書に出て来る張献忠はだ。
「戦いどころではありませんね」
「側近まで殺し尽くして戦える筈がない」
 こうも言う魯迅だった。
「とてもな」
「そうですね、人がいなくては戦えませんし」
「そうだ、それにだ」
「それに、ですか」
「君はそうした者が近くにいたらどうする」
 書生の目を見てだ、魯迅は問うた。
「人を無闇に楽しんで殺す輩を」
「張献忠が実際に傍にいれば」
「そうだ、どうする」
「逃げます」
 これが書生の答えだった。
「自分が何時惨たらしく殺されるかわかりませ
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