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【銀桜】1.闇夜篇
第4話「タダでもらった物ほど後が怖い」
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った。足音がしなくなると、双葉は天井に視線を戻す。
 闇夜の訪問者は好き勝手に過ごしていった。いきなり押し倒して、無理矢理口づけして、身体を縛って、毒入りのおカユを飲ませて――
――口移しだったのになぜアイツは無事だったんだ?
 だがその疑問はすぐに解けた。あの後、高杉はやたらキセルを何度も咥えていた。
 恐らくキセルに解毒薬でも塗っていたのだろう。
――全く、どこが『会いたくなっただけ』だ……。
 ふと、そっと唇に手をかざして、あの時を思い出す。
 意識がもうろうとする中で聞こえたのは、兄の声だった。
 答えたかったが、力が入らなくて声も出なくて。
 そして、なにもできないまま闇の中へ堕ちた。
 けれど、そのあと唇に温もりを感じて、双葉は闇から目覚めた。
 それは今の高杉とはちがう、優しい温もり。
 いいや、かつての高杉と同じ温もりだった。

――あの二人は似てる。

『俺は今も昔も護りたいモンは何一つ変わっちゃいねェよ』

『俺はあの頃と何一つ変わっちゃいねぇよ。……俺が護りたかったモンは何一つ変わってねェ』

――似てるから私は……

「好きなのか?」
 だとしたら何て傲慢で身勝手な話だろうと、双葉は己を軽蔑する。
 結局それは重ねて見ているだけ。兄者に高杉を重ねて、高杉に兄者を重ねて。
 本当の二人の姿を見ていない。それで『好き』と言えるのか疑わしい。
 だがこの想いに偽りはない。それは本物だと言い切れる。
 信憑性がないと言われればそれまでだが、この想いだけは失いたくない。

――それに……

『ならおまえの帰る場所はどこだ。なぜココにいる?』

自分(テメェ)がいてェ場所がテメェんちだ。居てェんなら好きなだけいろ』

――ココが私の居場所なら……私はずっとココに……

『待ってるぜ』

「!」

 去り際に耳元で囁かれた高杉の言葉。
 その一言で安堵の余韻が忽然と消える。代わりに、彼と過ごした記憶が一気に心に蘇る。

『『獣』は止められねェよ。血に飢えてるなら尚更な』

 高杉の強引な口づけ。
 最初は抵抗した。
 でも、次第に受け入れてる自分がいた。
 口づけを。高杉を。『獣』を。

――『獣』を求めてる……?

“ドクンッ”

 高杉は知っている。
 この『獣』が暴れるのを、最も望んでいるのが誰なのか。
 知っているからこそ、「待つ」と言ったのだろう。

「……ぅ……」

――止められないのか、本当に。……もう少し。もう少しだけ待ってくれ。

 自身に言い聞かせるように胸を押さえ、双葉は心の中で呟く。
 そして。
 また眠りについた。

=終=?
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