第3話「夜の山道は危険」
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「ハァ…ハァ…ハァ…」
――動かない……。
突然身体は大きな音を立て床に崩れ落ちた。
その後は痺れるような痛みに襲われ、双葉は全く動けず倒れこんでいた。
だがその異常な事態さえ当然というように、高杉は仰向けに倒れる彼女を見下ろしていた。
「自分で止める?……ククク。おまえはいつからそんな甘ちゃんになったんだ」
そして覆い被さるように高杉は双葉とゆっくり重なり、彼女の瞳を覗きこむ。
痺れのせいで焦点は定まらない。しかし双葉の瞳はハッキリと高杉を宿していた。
何もできない双葉をよそに、高杉は言葉を紡ぎ出していく。
「『獣』は止められねェよ。血に飢えてるなら尚更な」
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感覚まで麻痺してきたのか、頭もぼんやりして意識がもうろうとしてくる。
なのに高杉の声はハッキリと聞こえる。まるで心に刻まれるように伝わってくる。
――どうして動かない?まさかあのおカユ……!
「……ど……く……」
薄れゆく意識の中で、双葉は心当たりを口から絞り出した。
その微かな呟きを聞くと、素直に高杉は真相を話した。
「こうでもしなけりゃお前は戻って来ねェからな。忘れんなよ。お前の『獣』を止められるのは俺だけだ」
否定できないことだった。
殺すたび快感に満ち溢れ、敵味方の区別さえできなくなっていたあの頃。
そんな暴走していた時に唯一聞こえたのは、高杉の声。
――でも
「……変わ……った……おま……え……は……」
もうあの時の高杉ではない。
今の彼は狂気の道へ誘うだけの……
「何言ってやがる。俺はあの頃と何一つ変わっちゃいねぇよ。……俺が護りたかったモンは何一つ変わってねェ」
ほんの一瞬だけ、高杉の表情に陰りが差したように双葉には見えた。
高杉が護りたかったモノ……でもあの人はもういない。
あの人を消したこの世界。それは高杉にとって憎むもの以外の何物でもない。
――だから壊す。本当にそれしかないのか?お前の中には……。
「…や…め…」
「安心しろ。次目覚めたら、たっぷり血を浴びさせてやる。……楽しもうぜ、俺と一緒に」
必死の訴えさえかき消されてしまう。抗いすらもうできない。
――今は……戻りたくない。
しかしそんな思いとは裏腹に、高杉の唇が近づいてくるのを感じる。
彼に唇を奪われるのは、今に始まってじゃない。もう何度もだ。
でも今奪われたら全て失ってしまいそうな……万事屋には二度と戻れない。
そんな逃れようのない予感が駆け巡る。
そして同時に思い浮かぶのは、同じ銀髪の兄の姿。
だが今ここに兄はいない。
いいや。勝手な事をしてきた自分が今更求めちゃいけない。
けれど――
――あ
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