第2話「男は母親に似ている女を嫁にする」
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悲鳴に似た声が部屋に響き渡った。
だが刀は床に刺さっただけ。高杉の腕から一滴も血は流れなかった。
「冗談だ。本気にしたかァ?」
「………」
胸の中で複雑な気持ちが広がる。その中で最も強いのは後悔の念。
だがその原因は高杉にはない。そう、自分にある。
――血が飲める。久しぶりに……。
スッと頭に浮かんできたのはその言葉。その次に来たのが咎める気持ちだった。
例え一瞬でも、そんな喜びがあった。『血』を求めてしまった。
そんな双葉の心を知ってか知らずか、刀を鞘に戻して高杉はその場に座る。彼女と目線を合わせるように。
「どうだ、双葉。自分の家で俺と一緒にいる気分は?」
「……家じゃない。ここは私の家じゃない」
「ならおまえの帰る場所はどこだ」
「……どこにもない。私に帰る場所なんてない」
「じゃなぜココにいる?たんに兄離れができねェだけか。いや、それは銀時の方だったな」
笑いをこぼした高杉のキセルから、煙がうっすらと浮かんですぐ消える。
「アイツは相変わらずだな」
「ああそうだな。こんな世界になっても受け止めて生きて、相変わらずだ。兄者には変わらない強さがあるよ」
「俺には流されてるだけに見えるぜ。けど、テメェは抗ってんだろ。この腐った世界にも、現実にも」
「……」
「でもよ、獣まで抗う必要ねェぜ。まだ『血』を求めてんだろ、双葉」
心理を追求する様な高杉に、双葉は少し自嘲気味に答えた。
「否定はしないさ。今もどこかで物足りなさを感じている」
命を奪う――殺して生まれるどうしようもないあの『快感』は忘れられない。
初めてこの手で命の灯を消したあの日から――
「なら素直になれよ。素直になってこの腐った世界をぶっ壊そうぜ。俺の黒い獣と共に暴れようじゃねェか。それがテメェの望みだろ」
それは狂気への誘い。
この欲求に素直に従えば、こんなに苦しまなくていいかもしれない。
だけど本当にそれでいいのか。目先だけの利益は身を滅ぼすだけ。
「それとも銀時と一緒に居てぇのか?」
この世界で唯一血の繋がりがある兄。たった一人の家族。
人は例え孤独になっても、最後には『家族』という存在が心を支えてくれる。
ずっとお互いの心を支え合ってきた、たった二人だけの家族だった。
だが今は――
「兄者は一人じゃない。知ってるだろ。私以外にもう『家族』がいるんだ」
「嫉妬してんのか」
「さぁな」
「だからここに残ったんだろ」
――来いと言われても断った。あの枠の中には入れなかったから。
――嫉妬?いやそんなものじゃない。
「それでまんまとお前の策にはまってしまったなら、笑いのネタにもならないな」
「そうか?」
「俺は笑えるぜ」とまたキセルを一服する
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