志乃「楽しい?」
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曲は一番の峠を越え、二番へと移行する。Aメロでは無く、Bメロから始まり、Cメロの道を辿ってから、再びサビに入る。半分は越えた筈。俺は曲のリズムの手綱を離さないように歌い続ける。
間奏に入り、マイクから顔を背け、小さく息を吐く。よし、ラストだ。失敗は無い。そんな事考えてるヒマあったら、成功に耳傾けるまでだ。
やがて曲は志乃の伴奏で締め括られ、俺はヘッドフォンを外してさっきと同じように志乃に録音した内容を聴かせてもらう。
それを最後まで聴いて、俺は今まで閉じていた口をゆっくりと開き、結論を出す。
「これで、行こう」
そう言った時、俺は前回以上の達成感を身体全身から味わった。
一度壊されて、また歌い直して、今度こそ納得のいくものが出来た。投稿後のユーザーからの反応も気になるが、それ以上に今の自分を愛でる方が先だった。
*****
家に帰ったのは、まさかの一九時だった。父さんは帰っていなかったが、母さんからは少しお咎めをもらってしまった。
志乃と俺の部屋に戻り、機材をバッグに入れたまま置いておく。そして、一緒に一階に下りると、母さんに風呂を急かされた。そこで、志乃が先に入る事になった。
だが、風呂場のある部屋に行ったところでこちらに振り向き、俺に手招きしてきた。何事かと近付いてみると、志乃が少し照れくさそうに言葉を発した。
「一緒に入る?」
……俺は今、ドッキリにでも掛けられているのだろうか。
あの志乃が、何故か俺に混浴を勧誘してきた。これは日本に宇宙人が襲来してくる以上に大ニュースになる事だろう。特に、家族内で。
というか、いきなりその展開はあり得なさすぎる。何がどういう理由でそんな状態になった?一体俺と志乃の間に何があった?いや、何も無い。帰りだって、いつものような下らない話しながらのんびり歩いていただけだ。
ならば、これはドッキリに違いない。きっと母さんと前もって連絡でもしたんだろう。そうだ、これは嵌められているだけだ。
だとすれば、俺がここで取る道は一つしかない。
「ああ、じゃあ入るか」
ここは、あえて話に乗る。そして、耐え切れなくなった志乃に謝罪を要求する。けっこう大人げない話なのだが、ここは現実を見てもらわなきゃな。俺はそんなに甘い人間じゃないんだよ。
だが、次の妹の顔を見て、今までの俺の考えは単なる妄想に過ぎなかったのだと実感させられる事になる。
「……冗談で言ったのに、まさか笑顔で返されるなんて。兄貴、変態すぎる」
「……」
「……」
「……え」
「……いや、冗談だから。兄貴と入るとか、日本に宇宙人が襲来する以上に危険な事でしょ」
「……はい」
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