志乃「楽しい?」
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の問い掛けに対して俺が答える言葉は一つだ。
それを、自分にも言い聞かせるようにして、口に出す。
「当たり前だよ。だからこそ、一度壊れてもまだやれるんだっての」
その言葉に、志乃はやはり目を合わせぬまま、僅かに首をコクリとした。そして、互いに無言のまま準備をしていった。
「よし、出来た」
「じゃ、後は俺が歌えば良いんだな」
俺はカラオケのマイクを取って、いつものように声だし練習を始める。何曲か歌って喉の通気性が良くなったところで、マイクをテーブルの端に置き、ヘッドフォンを耳に装着してマイクスタンドの前に立つ。
そして、志乃に合図を送り、耳に聞こえてくる曲に合わせて歌い出した。
一つ一つの言葉を噛まず、それでいて曲自体を噛み締めていく。『歌』という一つのカテゴリーが、人に何を伝えたいのかを考える。その真意を読み取るように、メロディーに合わせて力強く。
志乃と作品を作る事を知った時、俺は歌うのに必要な事を考えた。それはネットに載っているのかもしれないが、ぶっちゃけ意味は無いと思った。これは、俺が自分で見つけないといけない。そう直感的に感じたのだ。
そして、悩んだ末に到達した必要な事は――
歌を好きになる事だった。
何も、最初からそうとしか考えていなかったわけじゃない。それこそ、歌の意味を考えるだとか、何が何でも音を外さないとか、あらゆる点を確認していった。
そして、その先に出した答えがこれだった。やはり、歌を歌うのに必要なのは、『好きになる』事、大きく言えば『愛する』事なのだ。
それを勝手に解釈し、現に歌い続ける俺は、音楽界の中で叩かれる存在なのかもしれないな。
*****
気付けば、俺は曲を歌い終えていた。ヘッドフォンを取り、志乃に再生をお願いする。
曲は前奏から始まり、Aメロに入ると俺の歌声が聞こえてくる。初めて聴いた時は恥ずかしい事この上なかったが、今では客観的に聴く事が出来た。
そして、三分を聴き通して、俺はまだいける気がした。何か具体的な案があるわけじゃない。でもここで終われるとも思えなかった。
「もう一回、歌っても良い?」
「良いよ」
志乃は素っ気なく返すも、どこか嬉しそうな声をしていた。
再びヘッドフォンに曲が流れ出し、さっきと同じく歌い出す。今度はちゃんと意識して。
この曲はサビの部分の音が高い。それを一番と二番、最後のサビで繰り返す。それさえ安心出来れば、もう言い残す事は無いだろう。
さっきの録音で聴いたのも、音ズレは無かった。俺は高い音も低い音も出せるようになったオールラウンダータイプなので、そこに不安を感じる事は無かった。練習した甲斐があったってもんだ。
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