志乃「私としては――」
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ンという謎の感覚に押し寄せられた。
志乃が持っていたバッグの中に入れられたパソコンの液晶が割れていた。部屋の明かりが志乃の影を作り出して、バッグの中が暗くなっていたが、なんとか確認出来た。他にもマイクやヘッドフォンなどの小さい物も入っていたが、そちらは問題無さそうだった。
でも、現実は容赦なく、俺に事実を突き付けてくる。
パソコンが壊れた。それはつまり、これまでの成果が破壊されたという事だ。
それを頭の中で繰り返し繰り返し唱えたところで――
俺は、静かに泣き続ける志乃を、横からゆっくりと抱擁した。
志乃が突然息を飲んだのが伝わる。だが、それ以降は声を潜め、しかし少しずつ嗚咽が混じってきた。それに合わせ肩が揺れるのが直に分かる。
「……ごめん」
俺は、そんな志乃に対し謝った。志乃が掠り声で「え?」と言ったのが聞こえた。
「俺も、これは予想してた。だからこそ、志乃が悲しむの、見たくなかった。ずっと後回しにし続けたんだ。どうせ、最後には結末が待ってるって、分かってたのに……」
単語のようなカタコトになってしまったが、声を震わせずに言う事が出来た。ここで弱いところを見せちゃダメだ。これは兄貴としてでは無い。同じ目線で戦ってきた相棒としての、覚悟だ。
志乃を優しく抱くものの、志乃に力は入っていない。手はダラリと下がり、足も崩れ正座で猫背になっている。俺の右肩に志乃の頬が来る位置だったので、口が動いたのはすぐに分かった。直後、志乃が啜り泣きの混ざった言葉を吐き出した。
「兄貴は、悪くない。私が、私が悪いの。私があの時、簡単に転ばなきゃ……私、弱いから。強いようで、もっとずっと、弱いから」
「え……?」
「いつも、兄貴に偉そうにしてても、心の中では、それがダメだって……もっと、素直にならなくちゃって、思ってるのに。どうしても、それが出来なくて……。ピアノだって、そう。どんなに頑張ったって、どんなに好きだったって、私が弱いんじゃ、多利間さんに勝てるわけ無い」
「……」
何で、だよ。
何で、志乃はそこまで自分を否定するんだよ。そんなの――
「そんなの、間違ってる」
俺は、大きくないがはっきりと、志乃の言葉を否定する。それ以外の返答を許さないかのように、ゆっくりと言い聞かせる。
「それは間違ってる。間違ってるよ。お前が転んでなくても、もしかしたらあいつは別の事でお前を襲ったかもしれない」
あったかもしれない展開を話す。
「強いようで弱い?そんな人間、どこにだっている。それは、自分を相手に表現するのが苦手なだけだ。だから、ちょっと刺々しくなっちまったり、遠回りな表現になったりしちまうんだ。でもさ、お前は数年
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