志乃「兄貴、ごめん」
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したんだから。
「今の私、ちょっとイラついてるの。どうしてだか分かる?」
「全く」
「そう」
志乃の素っ気ない返答にも動じず、多利間は足を止めずにゆっくりと接近してくる。
俺は志乃の手を引いて、わざと多利間に道を作らせたのだが、奴の目が志乃を離れる事は無い。
「でも、答えだけは出させてもらうわ。ここで会った偶然に感謝しないと」
そう言うと、多利間の足取りが少し速くなる。そして、薄暗い道路の中、どんどん俺達に詰め寄ってくる。
後ろを向いて逃げ出す事も出来たのだが、厄介な事に、多利間から狂気的な何かを感じない。当然、俺は超人でもなんでもないので、そんなの当てにならないのだが、今の奴はとても何か出来るような状態では無いと思うのだ。
……いや、待て。
右手に持ってる青いケース。
俺達がゆっくり後ずさりするのに対し、多利間はさらに幅を詰め――右手に持っていたケースを振り上げた。
それに気付いた時には、もう反応していた。剣道時代の反射神経が無意識に俺の身体を目的の場所へと誘導する。
俺は、志乃の顔目掛けて弧を描いて向かってくるケースを肩で弾き、志乃の手を引いて走ろうとした。
だが、手を掴んだところで志乃の身体が突然重たくなる。
驚いて後ろを向いたら、そこには志乃が俺に手を引かれながら転んでいるのが見えた。多利間は、青いケースを囮にして志乃に足を掛けて転ばせたのだと、今更ながらに気付く。
「お前!」
「お兄さんの瞬発力には驚きましたけど、葉山さんが目的なんで」
「お前、なんか志乃に恨みでもあんのかよ!こいつは、お前に負けたんだぞ」
そう、あの全国大会で。一次予選を突破出来なかった志乃は、その時点で敗北者だったのだ。
でも、多利間は突破した。志乃に勝ったのだ。
その事実を改めて伝えたのだが、多利間の顔色は優れない。むしろ、今のでスイッチを押してしまったような悪寒を感じた。
そして、その正体を問う前に、目の前の女は自分の口から明かしてくれた。
「なら、何で私が葉山さんが通ってたピアノ教室に呼び出されて『葉山さんを連れ戻してほしい』って言われなきゃならないの?」
その言葉は、一人地面に手を付いていた志乃の表情を変え、何も発さぬまま多利間を見つめた。
多利間はそれを拒否するように、駅の方へと続く道を歩き出した。
最後に、志乃に対する憎悪の言葉を吐き出した後に。
「それなのに、貴女はお兄さんとのんびり遊んでるだなんて、私から見れば十分に嫌味よ」
*****
暫くの間、俺達はそこで硬直していた。志乃は立ち上がる事無く、俺もそれを呼びかける事無く、多利間が去
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