第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第二節 決意 第四話 (通算第49話)
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二度と彼らに会うことはないのだろうか。
今引き返せば、まだ間に合う。
そう考えると、ユイリィの悲鳴が聞こえて来そうだった。メズーンが引き返せば、ユイリィが捕まってしまう。奴らに捕まれば、何をされるか分からない。女子供にも容赦ない連中である。やはり、進むしかない。友人を見殺しにはできなかった。やれるだけのことを精一杯やるしかない。
詰襟のホックを留めて、鏡をみる。およそらしくなかった。何処がどうというのではなく、なんとなくである。そして、なによりもメズーンらしくなかった。
アースノイドとスペースノイドは同じ人間であるのに、何が違うというのだろう。
生物学的な違いは、生まれた場所だけである。人種融合政策が進んだ今では肌の色も関係ない。アメリカ系も日系も華系も、黒人も関係ない。たかが生まれた場所ひとつで、何故これほど差別されなくてはならないのか。誰もを納得させられる〈答え〉などありはしなかった。
地球という惑星に収まりきらなくなった人類が、スペースコロニーというゴミ捨て場に同胞を棄てた――と、スペースノイドは捉えた。強制移民という名の選別がなされて以後、選別した者が己の権力を維持するために時間を費やした結果、選別された者と選別されなかった者との間に深い溝を穿った。もしかすると、それが選別した者の狙いだったか?
穿ち過ぎなのだろう。
だが、選別した者が、その溝を埋める努力を積極的にしてこなかったことは事実である。時とともに硬直化した連邦政府はその民主制が地球にのみ根差していたために、スペースノイドを顧みず、多くの地球市民にとっては官僚主義の権化であった。政治家の世襲が進み、いよいよ貴族化していく中で、官僚と軍人が結託し経済を支配しようとしていた。政府は市民の代表者ではなく、企業の代表者であり、軍は失業率対策の防波堤と化していた。
一般に知られているエゥーゴはジオンの残党と結託したテロ組織ということになっている。しかし、スペースノイドであればそれが違うと子供でも知っていた。ジオニズムに魅せられた民衆に訪れた突然の平和は、相変わらず、地球中心であり宇宙を無視した棄民政策でしかなかった。
軍部は政治家と結託して軍需経済による地球の安寧を画策し、政治家は軍の武力をちらつかせてスペースノイドから搾取する。何も変わることのない政府の在りようが、総人口の半分を死に到らしめてもなお学ばぬ愚かさの象徴となっていた。
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