第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第二節 決意 第三話 (通算第48話)
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った。
レドリックは、メズーンの弱気を笑ったりはしなかった。だが、迷いに付き合うつもりもない。時計を見る。時間はない。
「《01》が演習に入れば、《02》、《03》もハンガーから出る。今回の演習には《クゥエル》が参加することになっているのは知ってるな?」
「で……どうやって乗り込むんだ?」
肝心なのは怪しまれずに、機体に乗り込む方法だ。それに機体には操縦者の癖が染み着く。メズーンが合わせられない以上、癖のなさそうなパイロットの機体がいい。レドリックの狙いは《01》である。レドリックが見たところ、正規パイロットであるエマ・シーン少尉は、基本に忠実であり、癖がない。同じ《ガンダム》のパイロットでも、《02》のジェリド・メサ中尉は粗削りであるが直感的な動きに見るべき点がある。《03》のカクリコン・カクラー中尉は若手にしては熟練者並みの腕だが、それ故に癖が強い。今回の計画には二人の機体は不適切だ。
「エマ中尉の機体は《01》だ。演習の第一陣で出る」
「……」
黙ったまま、先を促す。
「ということは、いち早く帰投するということだ。整備長には話を通してある。とはいえ、一瞬隙を作るぐらいが関の山だろう。その隙を突け」
「……エゥーゴはそれに対応できるのか?」
「彼らにはこちらの計画を伝えていない――というより、伝える手段がない」
エゥーゴに協力するにしても、このタイミングでは彼らには協力者の出現を教える訳にはいかなかった。つまり、タイミングは向こうが仕掛けるのに合わせなければならない。エゥーゴの末端組織に報せたところで、実動部隊に伝わるには時間が掛かる。直接では、諜報部に気付かれる危険性がある。
「ぶっつけ本番しかない……ってことか」
「そういうことだ」
レドリックが大仰に頷いてみせる。メズーンの肚は決まった。誰かがやらねばならない。正義のヒーローなんて何処にもいないのだ。小さな積み重ねが、時局を変える大きなうねりを作り出す。
「やるしかないんだな」
「そうだ。いつか誰かなんて、白馬の王子は来やしない。だったら、自分がなるしかないだろう。今、ここにいるのは俺とお前だけだからな」
二人は頷き合う。
レドリックが席を立ち、ウイスキーのボトルと小さなショットグラスを二つ、器用に片手で持った。メズーンは無言でグラスを受け取る。グラスに並々と琥珀色の液体が注がれた。メズーンがレドリックのグラスに注ぎ返す。交差させて腕を組み、互いにグラスに口をつけた。
「死ぬなよ」
「お前もな」
今生の別れになるかも知れないという思いが二人にはあった。戦乱の幕開けを前に敵味方に別れなければならない無情は酒でなければ流れなかった。
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