第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第二節 決意 第三話 (通算第48話)
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
メズーンは凍りついていた。口を動かしても、思うように言葉が出てこない。もともと雄弁ではないが、口下手でもない。衝撃的なレドリックの計画が、メズーンから思考を奪ってしまったのだ。
少年時代に一年戦争を体験したメズーンにとって、《ガンダム》はいわば現実に存在するヒーローだった。大人になるに従って、自分が暮らす世界というものが、それほど単純ではない――連邦が善でジオンが悪などという勧善懲悪の世界ではないことは理解したが、少年時代に刻み込まれた《ガンダム》という名前に象徴された正義は、色褪せることなく今もなお燦然とメズーンの中にある。メズーンがパイロットになった理由の一つに、《ガンダム》への憧れがなかったと言えば嘘になる。パイロット――特に《ジム》乗りにとって《ガンダム》を操縦するということは目指すべき頂である。正直、動かしてみたいという気持ちはあった。だが今は、それよりも制めるものが強かった。抜擢されて搭乗する訳ではないだけに、いきなり実戦で動かすともなると自分の操縦に心許ないさを覚える。不甲斐ないと言われようが、それが現実だった。
古参のバラム大尉に言わせれば、『《ジム》さえ満足に扱えない奴が《ガンダム》に乗りゃ、いい的にしかなりゃしねぇさ』となる。これはメズーンだからということではなく、バラムでさえそうであると言いたいのだろう。
試作機――特に《ガンダム》を冠する機体は、それだけパイロットに掛ける負担が大きい。だからこそテストパイロットはエースパイロットの中でもベテランでなければならないとされる。連邦の英雄アムロ・レイ大尉が初搭乗で《ザク》を二機も撃墜したなどということは例外中の例外である。ニュータイプと呼ばれる一種の予知能力者に似た感覚を体得した彼だからこそ成し得たことだ。
本来、試作機である《ガンダム》をティターンズの新米士官らが操縦するなどと言うことは不自然極まりない。ティターンズが、自分たちが使う次世代機の試作機に《ガンダム》の名を勝手に使ったに過ぎないのであれば張り子の虎である。しかし、演習で対戦したメズーンには、《ガンダム》が本物の虎であると解っていた。《ガンダム》はやはり《ガンダム》と呼ばれるに相応しい機体に命名されていたのだ。
「どうした、自信がないのか?」
「正直言って……な」
メズーンのパイロットとしての腕はエース級とはいかないまでも、決して悪い訳ではない。たが、扱ったことのある機体は《ジムU》止まりだ。レドリックも操縦はできる。《ガンダム》を操縦するだけならば、《クゥエル》に搭乗した経験がある分、メズーンよりもレドリックの方が適性が高いだろう。《ガンダム》は《クゥエル》をベースとしているからだ。が、レドリックには彼にしかできない役目があり、操縦する側に回ることはできなかった。しかも、事後処理のことを考えれば尚更だ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ