第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第二節 決意 第二話 (通算第47話)
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
レドリックの執務室はティターンズ専用のものとしては最も小さな部屋であった。バスクはレドリックに特別室を宛がうつもりだったが、彼は辞退した。レドリックは事前に知り得た情報から、連邦宇宙軍に潜在するティターンズへの反感を少しでも排除したいと考えていたからだ。
赴任先が〈コンペイトウ〉や〈ルナツー〉両鎮守府のどちらかならば懸念はないが、ここはサイド7――いやノア自治区である。スペースノイド中心の元コロニー駐留軍と一○○○万人のスペースノイドが生活している。ティターンズがいままでのやり方をしていていい訳がない。過去は変えられずとも未来は変えられると信じていた。
「メズーン・メゾット入ります!」
インターホンが鳴り、メズーンの声がした。副官に通すように伝え、別室に下がるように指示する。
メズーンが如何に友人であっても、軍の中では少佐と中尉である。公私混同は慎まなければならない。
「楽にしてくれ、メズーン。掛けないか?」
メズーンがいいのか?という顔をする。いきなり砕けた口調だったからだろう。レドリックは頷いて、テーブルにコーヒーを出した。
「急ぎ直接知らせなきゃならないことがあってな…」
レドリックの表情は険しい。いつにない歯切れの悪さだった。
「どうした?お前らしくもない…」
じっとレドリックの眼を覗き込む。戸惑い、焦り、迷い――凡そレドリックらしくない感情が綯い交ぜになった混沌が滲んでいる。
「……ファ・ユイリィに反政府活動の嫌疑が掛かった」
「何ぃ?!」
メズーンは机に思いきり拳を叩きつけた。力に抗いかねた机の足が歪み、二つのコーヒーカップが絨毯に白い破片と焦げ茶色の花を咲かせた。
ユイリィをメズーンは良く知っている。ユイリィはメズーンを知らないかもしれないが、学年は違ってもジュニアスクール、ハイスクールと同じである。オリエントな顔立ちで、何かと有名であり、隠れファンも多かった。メズーンも学生時代、淡い恋心を抱いた時期があった。
「落ち着け、嫌疑だけだ」
レドリックがメズーンの肩を掴んで耳打ちする。二度肩を軽く叩き、メズーンをソファーに座らせた。メズーンは先を促す様に、じっとレドリックを見ている。
「先日、図書館でファ・ユイリィが書いたレポートに問題があると判定されたんだ」
レドリックが任務で〈グリーンノア〉を離れる前のことである。反政府思想のおそれありと、ワイヤード上にばら蒔かれたチェックプログラムがユイリィのレポートを拾ったのだ。検閲官でもあったレドリックはこれを無害と認定し、ユイリィに警告を匿名で送っておいた。だが、レドリックが任務から戻るとユイリィの名が嫌疑者リストに挙がっていた。慌てたレドリックは嫌疑者リストからユイリィを削除しようとしたが、既に上官の承認が下りてしまっており、どうにもならなかっ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ