第二章
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なあ、いい毛はえ薬ねえかな」
本気で探しているようであった。その顔を見ればそう言っていた。
「どっかにあったら教えてくれよ」
「わかりました」
「御礼はそれでいいからよ」
結局御礼はすることになりそんなところで落ち着いた。先輩との話は終わり程無くしてその日がやって来た。先輩は話通り彼女と一緒にカープの試合を観に行った。
「カープもな」
行く前にふと寂しい顔になった。
「どんどん選手がいなくなるからなあ」
「金本ですか」
「兄貴だけじゃないしな」
今や阪神での人気者である。その逞しい身体と温かく、男気のある性格からファンに愛されている。これは広島時代からそうであるが阪神ファンの応援は別格だ。
「江藤も川口もな」
「はあ」
「何か俺がファンやってからあまりいい目見たことがねえんだよ」
「昔はそうじゃなかったらしいですね」
「いや、そのもっと昔も似たようなものだったらしいぜ」
「もっと昔って?」
「赤ヘルになる前だよ」
昭和五〇年より前である。この時代の広島東洋カープを覚えている人間はもうあまりいない。ノーヒットノーラン男外木場義郎の殺人光線と謳われた剛速球なぞ過去の歴史となってしまっている。どういうわけか彼のデッドボールを受けた田淵幸一の話はよく言われる。これは阪神ファンからであるのは言うまでもない。阪神ファンにとっては過去もまた現在と同じなのだ。それは記憶であり歴史ではないのだ。
「そんな昔のこと知りませんよ」
「俺だって知らねえよ」
実は先輩も同じである。
「俺が生まれてすぐに山本も衣笠も引退したしな」
カープ黄金時代と言えばこの二人である。他にも選手は大勢いたがこの二人なくしてカープの時代は語ることが出来ないとまで言われている。
「最後に優勝したの見たのは何時だったかな」
「そんなに昔なんですか」
「御前は日本ハムファンだったよな」
「はい」
リーグが違うが。
「そっちはもっと凄いか」
「何回もチャンスはありましたけどね」
「そっちも何とかなるんじゃねえのか?」
「どうでしょうか」
優勝しそうでしないのが日本ハムである。いっそのこと一時の阪神の様に華麗とまで言える程の壮絶な弱さを見せて欲しいものだと思ったことがある。一種のマゾヒズムである。
「北海道に移ってもね」
「ちょっとは変わったじゃねえか」
「さて、どうでしょうか」
変わったという実感があまりないのが本音である。
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