第百七十五話 信長着陣その二
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「最早幕府は」
「何の力もないな」
「都の一角にいるだけです」
まさにだ、その辺りにいるだけだというのだ。
「兵も銭もありませぬ」
「うむ、しかしな」
「幕府は幕府ですか」
「名はある」
もっと言えばだ、それしかない。
「だからな」
「幕府の密命はですか」
「無視してもよいが」
それでもだった、これもまた政だった。
「織田信長が我等に手を及ぼしてくるのならな」
「一戦してですか」
「家を守る」
元就ははっきりとした声で言い切ってみせた。
「そうしようぞ」
「侮られぬのですな」
元春の言葉だ、この言葉は。
「織田に対しても」
「侮られては終わりじゃ」
それが戦国の世だ、武門として恥じるべきことをしてはそれで侮られ人の心は離れ弱くなり潰される。だから元就は言うのだった。
「だからな」
「何としてもですな」
「そうじゃ。織田家とは一戦交えてもな」
それでもだというのだ。
「家を守るぞ」
「わかりました」
元春は父の言葉に確かな顔で応えた。
「さすれば」
「そういうことじゃ。公方様の文はその時の大義名分にする」
織田家との戦、それのだというのだ。
「その他はな」
「使わぬと」
「公方様の文は」
「実際あまり役に立つものでもない」
こうも言う元就だった。
「だからな」
「それでは」
「家をですか」
「うむ、守るぞ」
何としてもだというのだ。
「そのことを常に頭の中に入れてな」
「そうしてですか」
「戦国の世を生きていきまするか」
「そうするぞ。ではな」
「家を守ることですな」
「それを第一としてやっていきますか」
毛利家はこの方針だった、元就もそう決めている。
しかしだ、ここでだった。
元就は家臣達にだ、顔を曇らせてこう問うたのだった。
「ところで宇喜多じゃが」
「宇喜多直家ですか」
「あの者ですか」
「うむ、どう思うか」
問うのはこのことだった。
「あの者は」
「どうも。あの者は」
「やはり」
どうかとだ、彼等は宇喜多直家についてはだった。それぞれ顔を顰めさせてそのうえでこう元就に言うのだった。
「信用出来ませぬ」
「これまでのことを思うと」
「何時裏切るかどうか」
「油断出来ぬかと」
「背は向けられません」
「その通りじゃな、やはりな」
元就もだ、こう答えた。
「あの者は今は我等に従っておるが」
「何かあれば、です」
「すぐに我々を背から斬ってきまする」
「あ奴はそうした男です」
「ですから」
「何かおかしな素振りを見せればじゃ」
元就もだ、家臣達の言葉を聞いたうえでこう彼等に告げた。
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