第一章
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き放されたみたいで心細くなった。それが返事にも表われていた。
「後は運任せだよ」
「心許ないですね」
「そう言わずに諦めないことだな」
「そうですか」
結局先輩には愚痴を聞いてもらうだけだった。彼は講義が終わり、サークルも終わるとそのまま家へ帰った。自宅から歩いて通っているのである。
「参ったなあ」
運任せとは心細いと言わざるを得なかった。
「こんなのだったら結婚もできないんじゃないか」
そうした不安すら抱いてしまう。深刻に、深刻に考えてしまっていた。
「まさかとは思うけれど」
だがついついそう考えてしまう。暗い考えになっていくその時であった。
「!?」
不意に横の公園にある木の上に気付いた。
「あれは」
見れば一匹の黒猫が降りられなくなっていた。どうやら昇ったのはいいが怖くなってそこから降りられなくなったようなのだ。
「猫か」
「ニャー」
黒猫は弱々しい声で鳴いていた。
丁度その目と達之の目があった。こうなっては動物好きの達之は動かないわけにはいかなかった。
見ればその木は実に昇り易い木だった。彼は運動神経もよかったので易々と昇った。こうして猫を救い出したのであった。
「よし、もう大丈夫だぞ」
「アーーーオ」
猫は彼の腕の中で安心したように笑っていた。
「これからは不用意に高い木に昇るんじゃないぞ」
「ミャー」
わかっているのかいないのかわからないが猫は彼に鳴き声をかけてきた。そして彼が地面に下ろすと頭を足に摺り寄せてからその場を後にしたのであった。
「これで一件落着かな」
猫の姿が見えなくなってから呟いた。
「何はともあれ」
とりあえず猫は救った。それに安心して家に帰った。だがそれでも彼女がいないという悩みは消えることはなかった。それとこれとは話が別なのであった。
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