第五幕その八
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「だからな」
「長老さんがですか」
「金のことは心配いらぬ」
それも全く、というのです。
「金なら幾らでもあるわ」
「左様ですか」
「これでも愛媛の狸達の総大将じゃ」
そうした立場にあるからだというのです。
「金には困っておらぬわ」
「だからですか」
「うむ、金のことは気にすることはない」
それも全く、というのです。
「温泉の方もな。安心するのじゃ」
「そちらのお金もですか」
「しかも道後温泉は馴染みじゃ」
長老さんは加藤さんににこりと笑って告げました。
「では晩にな」
「はい、では晩御飯を食べましたら」
それならと応えた先生でした。
「温泉にお邪魔します」
「湯を楽しみながら話そうぞ」
「それでは」
こうしてです、お店のお金も払ってくれてでした。
長老さんは飄々とした感じで先生達の前を後にしました。その長老さんを見送ってからです。加藤さんは驚いたままのお顔で先生に言いました。
「いや、まさか」
「その愛媛の狸族の総大将にお会いすることはですね」
「思いも寄りませんでした」
こう先生に言うのでした。
「想像すらも」
「していませんでしたか」
「全くです」
「私も。まさか」
「お会いするとはですね」
「思いませんでした」
「しかしそれでも」
先生の今のお顔を見て加藤さんはこうも言いました。
「先生は落ち着いておられますね」
「実はこうしたことは多いので」
「先生はですか」
「色々旅行とか冒険もしていまして」
「そういえばイギリスにおられた頃は」
「はい、動物園や郵便局、サーカスをしてたこともあります」
先生はその頃のことを楽しげに思いだしながら加藤さんに笑顔でお話するのでした。
「色々としていました」
「そうでしたね、お話は聞いています」
「ここだけの話月に行ったことも」
「アームストロング船長みたいですね」
「あの時も色々とありました」
「そうしたご経験があるからですか」
「どうもです」
何が起こってもというのです。
「動じない様になりました」
「そうですか」
「はい、ですから」
「狸族の総大将にお会いしても」
「確かに想像していませんでしたが」
「動じられないのですね」
「むしろ楽しいと」
先生は穏やかな笑顔で加藤さんにお話するのでした。
「思っています」
「楽しいですか」
「色々な出会い、そして出来事と巡り合うことは」
楽しいというのです。
「非常に」
「そうなのですか、先生は大きいですね」
「お腹がですか」
「いえいえ、そうではなくです」
加藤さんは先生の今のジョークには思わずくすりとなって返しました。先生がここでお腹を摩ったのも見てです。
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