第一章
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んな話もしていた。あの時俺は何となくこいつの家の廊下でだべっててそんな話を言われた。その時は適当にあしらった記憶がある。そのことを急に思い出してきた。酔ってるってのに急に頭が回りだした。
「あの時の話かよ」
酔ってはいたがやけに冷静にその時のことが思い出されてきた。はっきりと頭の中に浮かんでいた。
「うん、あの時」
里恵は答えた。
「思い出してくれた?」
「あ、ああ」
俺はビールを一口飲んで落ち着いてから答えた。
「あの時かよ」
「それでね」
次に言うことはわかっていた。嫌になる程よくわかった。
「私、十六になったし」
「馬鹿言うんじゃねえよ」
俺はあの時の態度のまま言葉を返した。ただ違うのは酒が入っていることだった。もうほとんど自分が何言ってるのかわかっていなかった。後で言われてやっと思い出した位だ。
「御前まだ高校生だろうが」
「高校生でも結婚出来るよ」
「法律じゃあな。けれどな」
俺は言ってやった。
「普通高校で結婚してる奴なんかいねえだろうが」
「それでも」
「よく考えろ」
俺は缶を置いた。そして姿勢を正して言った。
「結婚してあれこれやって学校なんか行けるか。大学でも辛いんだぞ」
「そうなの」
「だからな、そんな話は後にしろ」
この時俺は諭したつもりだった。だがそれは結局話を先送りにしただけだった。だがその時それには気付いちゃいなかった。そもそも何で俺なのかさえわかっていなかった。
「いいな」
「高校卒業してからだったらいいのね」
「それで主婦になるなり働くんなりだったらな。まあ相手が働いてりゃ学校に行っててもいいな」
俺は自分が言われているのを完全に忘れてしまっていた。よく考えたらこれこそが酒のせいだった。酒の神様ってのは本当に意地悪なものだ。それに引っ掛かる俺も間抜けなんだが。
「相手次第ってことね」
「そういうことだ」
ここで俺はまたビールを手に取った。
「まあもう少し先だな」
「うん、わかったわ」
この時の話も話している側から忘れていっていた。何か里恵の奴がにこにこしているのが見える。
「じゃあ約束だよ」
「ん!?ああ」
もう何の約束だかわかっちゃいなかった。
「高校卒業した時ね。また来るから」
「またな」
気が着いた時には俺は親父に声をかけられていた。
「おい」
「ん!?」
どうやら酔い潰れて寝ちまっていたらしい。目を開けると親父が苦い顔をしてそこにいた。少しうとうととしちまっていたらしい。酒臭い息を大きく吐き出した。
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