第三章
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が声が泣きそうなのがわかる。それは利光にもわかる。だがそれがどうしてなのかは彼にもわからないままであった。
「私・・・・・・それは」
「あの、ちょっと」
踵を返して走り去ろうとする。その彼女を呼び止めようとする。
しかしそれは間に合わない。というよりは足が動かなかった。彼は呆然としたまま彼女が部屋から走り去っていくのを見届けるしかできなかったのだった。
これで最初の告白は無残に敗れた。しかし利光はまだ落ち込んではいなかった。
「聞いたぞ」
次の日省吾が彼のところに来て声をかけてきた。
「御前のことは」
「何だ、速いな」
「噂というものが流れるのは速いんだよ」
それが彼の返答であった。
「特にこうした話はな」
「そうだったのかよ」
利光は省吾のその言葉を聞いて苦笑いをせずにはいられなかった。だがその苦笑いは決して暗いものではなかった。それは省吾も気付いた。
「しかし落ち込んではいないんだな」
「何で落ち込むんだよ」
利光はその苦笑いのまま言葉を返してきた。
「一回ふられただけで」
「一回、か」
省吾はその言葉にあるものを感じた。そしてそれを利光に問わずにはいられなかった。
「じゃあまだ諦めてはいないんだな」
「勿論」
これは省吾の予想通りだった。利光は曇りのない笑顔と共に言葉を返してきた。
「一回で駄目でもな、次があるさ」
「みんなそうか。もう決めたんだな」
「最初からそのつもりさ」
利光はやはり曇りのない笑顔、言葉で返してきた。そこには何の迷いも見られない。
「何度でもな。振り向くまでな」
「わかった。じゃあ行けばいい」
その心は省吾にも伝わった。もう言うつもりはなかった。
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