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何度玉砕しても
第一章
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第一章

                   何度玉砕しても
 惚れるということは本当に突然だ。それはこの田中利光についても同じことだった。
「おい、あの娘何ていうんだ?」
 入学式のその日にクラスにいる小柄でやけに胸の大きいほわんとした感じの女の子を見てすぐに中学時代からの知り合いである能登省吾に声をかけるのだった。
「俺に聞くのかよ」
 省吾は利光に聞かれて顔を顰めさせた。背が高く四角い顔を顰めさせていた。
「だって今この学校でクラスで知り合いって御前しかいねえしよ」
「それはそうだけれどな」
 入学式で他に知り合いがいるということもあろう筈がなかった。それを考えれば当然と言えば当然の言葉だがそれでも随分理不尽な言葉であった。
「それでさ。彼女の名前は」
「知らないな」
 省吾はそう利光に返した。実にあっさりとした返事であった。
「知らないのかよ」
「知ってるわけないだろ」
 利光のその細く大きな犬みたいな目を持つ顔を見ながら返した。何を言っているんだこいつはという表情を自分の顔に浮かべながら。
「何で入学式早々名前知ってんだよ」
「それもそうか」
「当たり前だ。御前起きてるのかよ」
「バリバリ起きてるぜ」
「じゃあ変なこと言うな」
 省吾は怒ってそう返した。
「まあ可愛い女の子だよな」
「そうだろ?だから」
 利光は言うのだ。彼女に興味があることを隠しもしない。
「あの娘にさ」
「何かとお近付きになりたいってか」
「ああ」
 きっぱりと省吾に答えた。
「何としてもな。できるかな」
「同じクラスだしできるだろ」
 省吾の返事はかなり冷静で客観的なものだった。何処をどう見てもそうしたものを完全になくしてしまっている利光とは対象的ですらあった。
「それ位はな」
「そうか、まずはそれからか」
「それからって御前」
 何か利光の言葉に違和感を感じた。
「何考えてるんだよ」
「いや、別に」
 隠したがかえってそれを出すような言葉と顔になっていた。
「別に何もねえぜ」
「ホントかね」 
 省吾はそんな彼にあからさまに疑惑の目を向けてきた。
「そうだったらいいけれどな」
「疑うならそれでいいさ。けれどな」
「けれどな?何だよ」
「いや、可愛いなと思ってな」
 その彼女を見てでれでれとして言う。
「顔は可愛いしな」
 見れば大きいが垂れ目で二重の目に白い肌。少し肉づきがよく紅く小さな唇をしている。丸眼鏡が実にいい。そこに肩のところで切り揃えた茶色がかった黒髪だ。まるでアイドルのような容姿である。
「それに胸だってな」
 制服の上からでもそれがはっきりわかる。短いスカート丈の紺とグレーのチェックの制服を可愛らしく着こなしていると言えた。それがまたいいようであった。

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