禁断の果実編
第94話 プロジェクトアーク ver.光実 A
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もちろんこの計画は光実にとっても賭けだった。
無事出航できたとしても、パスポートも持たない人々が行き着いた外国で逮捕される可能性もあるし、沢芽市民だというだけで受け入れを拒否されることとてありうる。
それでも、やれることがあるのにやらないでおけるほど、呉島光実は殊勝な少年ではなかった。
これだけのために、彼は“こちら側”での独りぼっちの戦いを選んだのだ。
『どうしてくれる。これでは王妃復活のための燃料がない!』
「ああ。その燃料役は僕一人でやるから」
『何だと――?』
光実は起き上がると、持ってきたキャリーケースを開き、中身をひっくり返した。
溢れ出る多種多様のロックシード。――キャリーケースはシドが貴虎のオフィスに置いて行った物だ。錠前ディーラー役をやめた彼の置き土産。有難く使わせてもらうことにした。
光実は戦極ドライバーを装着し、手始めにヒマワリの錠前を拾ってバックルにセットした。
「ヘルヘイムの果実には元々、こちらの食べ物を遙かに上回る栄養がある。それを元にしたロックシードを交換し続ければ、僕一人でも王妃サマ復活のためのエネルギーを供給できるでしょ」
――この時、光実を衝き動かしていたのは、今は亡きリーダー、裕也との会話だった。
“なあミッチ。何かを成すには犠牲が必要っていう命題があったとして、ミッチならどう答える?”
“どうしたんですか、急に”
“昨日たまたま観た特撮の再放送でな、そんなシチュ出てきた”
“僕は……犠牲を最小限に抑えるやり方を探します。その上で、必要な犠牲なら、切り捨てます。迷いなく。それが、犠牲にする人たちへの、けじめだから。裕也さんは?”
“んー。だったら俺は、犠牲を自分一人に留めるやり方をするだろうな”
“自己犠牲、ですか”
“ん。それが俺の限界。俺、弱いから”
(裕也さん。僕は裕也さんが弱かったなんて思わない。それだってきっと、一つの最善です。そんなふうに言えるあなただったから、僕らみんなのリーダーだったんだから)
レデュエが用意した、フェムシンム文明における酸素マスクのようなそれを、装着する。
「始めてよ。僕が君たちに王妃サマを返してあげる」
低い声で告げた。
レデュエは光実の出方を窺うように佇んでいたが、やがて装置を起動した。
がくん、とひどい脱力感が光実を襲う。倒れはしなかったが、近くにあったベッドに座り込んだ。
(これで王妃が復活すれば、それを恩に着せて王にレデュエを押さえ込ませることができる。王は多分、こっちの世界に手は出さない。レデュエさえ何とかできれば、きっと侵攻も止まる。だから、負けるな、僕)
光実はベッドの手摺を掴んで、
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