志乃「兄貴、〇〇〇だしな」
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しなよ」
「俺も今それを考えてたところだ」
そう言いながら耳にヘッドフォンを付け直し、今度こそ志乃に合図を送る。
志乃は小さく頷き、編集された曲をパソコンから流し始めた。
最初に、志乃のピアノの音。パチモンじゃないという証拠のために加えたもの。志乃はこれを「ユーザーにはいらない場面」と言われたが、これが無ければ志乃の実力が証明されないので、入れる事を強く推した。
数秒後、ピアノの音と同時に原曲が始まる。さあ、ここからは俺の出番だ。
そこからは完全に曲を歌う事にのめり込んでいた。心の中は穏やかで、自分が自分を急かす事も無かった。これまでに感じた事の無い、圧倒的、安堵。
曲は難しいのに、歌っていても苦しい部分が無い。まさに『楽し』かった。
そんな優雅なひと時はすぐに終わりを告げ、志乃のピアノで曲が終わる。ヘッドフォンを取り、志乃の方を見る。すると、志乃は満足そうな顔で俺に言ってきた。
「やるね」
その三文字に、俺は何故かウルッときてしまった。いや、ホントに何でだろう。ただ、志乃に普通に褒められるのがあまりにもびっくりした。
「兄貴、何泣きそうになってんの?わりと気持ち悪いよ」
「うっせ」
全く、この妹は本当に妹かっての。もしかして俺の姉なんじゃねえの?全然俺よりしっかりしてんぞ。ああでも、俺がダメなだけかもな。
俺は今の録音を聴いてみた。自分の声を聞くというのが、予想以上に恥ずかしかった。隣で志乃がニヤニヤしているのが何ともムカつくので、平静を装っていたのだが。
そして、全てを聴き終えた上で、俺は自分の感想を伝える。
「その、俺はこれがすげえ良いと思えたんだけど。お前はどう?」
思い切って聴いてみると、志乃は少し悩むように頭をわずかに下に向けるも、ゆっくり顔を上げて答えた。
「私は問題ないと思うよ」
「そ、そっか」
「……」
「……」
そこで謎の静けさが訪れた。恐らく、これでほぼ完成という事で、それに対する言葉を探しているのだ。
実感は無かった。まさか、一ヶ月半ぐらいで完成まで辿り着けるだなんて、正直考えていなかった。
でも、ここで現に完成しようとしている。
「……これって」
「?」
俺は自然と言葉を漏らしていた。別に何か考えて言い出したわけじゃないのに。志乃は突然声を上げた俺をじっと見ていた。
「これって、後は動画を付ければ完成なんだよな」
その次に出たのは、別に特別性など無い、ただの確認の言葉だった。
「そうだね。まぁ、動画は本家の奴使えばいいんじゃないの」
志乃はそれに対し相槌を打ち、続いて言葉を吐き出した。
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