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相棒は妹
志乃「兄貴、〇〇〇だしな」
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乃は鍵盤の上の手を動かし始めた。

 あの時聴いた、志乃のピアノの音。こうしてまた聞いてみると、やはりそれは良いものだった。前回どこが間違っていたのか分からなかった俺は、今回の演奏も完璧にしか聞こえなかった。二回目にも関わらず、演奏が始まった瞬間、一気に鳥肌が立つのだ。

 原曲が原曲なだけに、そのテンポは異端している。だが、志乃はそれを何食わぬ顔でこなし、三分程の曲はあっという間に終わってしまった。

 俺はボタンを押し、録音を終わらせる。危うく曲に夢中で気付かないところだった。

 そして、俺を魅了した音を生み出した妹に、感想を聞いてみる。

 「どうだった?」

 「……いまいち。もう一回いい?」

 そういう志乃はどこか納得いかないような顔をしている。その嫌な感触は分かるので、俺はすぐに了承し、録音を改めて行う事にした。

*****

 最初の録音から約二時間。一曲が三分ぐらいで休み無しだったから、恐らく三〇回ぐらいは同じ曲を弾いている。この集中力の高さには、けっこう本気で驚いた。俺は一度休憩した方が良いと言ったんだけど、志乃はそれをあっさり拒否し、ずっと同じ曲を奏で続けた。

 そして今。無限に思えた時に終わりが来た。

 「これでお願い」

 「マジ?」

 「一番満足出来た」

 志乃がスッキリしたような顔を浮かべ、俺に言ってくる。その顔がとても可愛らしく、俺は何故かドキッとしてしまう。全く、こいつは何の合図も無くやってくるんだから困る。

 とはいえ、志乃の伴奏は上手くいった。ちゃんと録音もしてある。後は原曲を弄って、志乃オリジナルの伴奏を組み込めば、声以外の中身が完成する。動画と合わせるのはまだまだ先の話だ。

 「志乃、ちょっと休憩してから手伝ってくんね?これ、俺には難しすぎて……」

 「兄貴は使えない子なの?」

 「酷い言われようだ」

 そこで俺も休憩するために自室に戻り、ベッドに飛び込む。ずっと同じ体勢で構えてたから大の字になった時に何ヶ所かの骨がポキポキと鳴った。

 天井を見ながら、俺はふと考える。

 ついにここまでやって来た。志乃の伴奏が終わり、編集した後に俺の声を搭載する。後は本家動画を拝借すれば、俺達の作品は完成する。

 それで終わりなのか?

 完成したら全部終わるのか?

 俺としては、もっとやりたいんだけど、それは志乃次第か。俺は引き立て役だしな。ボーカルなのに。

 「兄貴、何勝手に戻ってんの」

 その時、部屋の入り口から志乃の声がした。そうだ、まだ終わっちゃいない。こんな辛気臭い事考えてないで、今はじっくり楽しもう。

*****

 俺は再び志乃の部屋に戻り、実際の編集に取り掛かる事にした
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