志乃「じゃ、やるか」
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トに付属していた赤いマイクの絵が映し出されていた。
俺は説明してくれと言おうとしたのだが、あまりにも急激な展開に目で訴える事しか出来なかった。一体、どうやってゲットしたんだ?俺がどこを探しても見つからなかった代物だぞ、これは。
すると、志乃がドヤ顔しながら説明してくれた。
「一件だけ、しかもこれ一つだけしか売ってない店があった。だから、誰かに取られる前にそこで買った」
「一件だけ……あ、もしかして」
俺の記憶の海から釣り上がったのは、一つの『おしい』結果。ネットでいろんな店を探し、試しにその店にも行ったのだが、売り切れてしまっていた。しかも、俺が店に入った三十分前に。苛立ちと悔しさを今まで以上に経験したのを、俺は明確に覚えている。
「あの時あそこで買ったのは、お前だったのか……」
「ダメ元で入ったら見つかって買ったの。最初はパチなのかって疑ったけど」
いや、店に並んでるんだからパチモンじゃないだろ。まぁ、ずっと探しても見つからなかったのにいきなり姿を現したんじゃ、そう思っても仕方ないよな。
「兄貴、開けていいよ」
「俺が?」
「他に誰がいるの」
そこで僅かに浮かび上がった志乃の微笑を見て、俺は本当に素晴らしい妹を持ったものだと実感した。ここまで兄妹の仲が良いところなんて、最近はあまりないんじゃないか?
俺は箱に付けられたテープをハサミで切って、丁寧に中身を取り出す。普段は何をやっても雑なところが見受けられるが、これはとても綺麗に開けられた。
そして、中から出てきたのはコードが黒のモールで結ばれた赤いマイクだった。それは当たり前の事で、逆に違う物が入ってたら怒り狂うのだが、その時俺は涙腺が崩壊しそうになった。
やっと手にする事が出来たマイク。一度ぶっ壊れてしまい、何もかもが停滞してしまった。でも、これさえあれば出来る。これさえあれば、俺は歌える。
「志乃、ありがとう」
そこで志乃に感謝の言葉を呟いた。『ありがとう』なんて五文字の言葉で、どれだけ感謝の気持ちを伝えられるんだろう。俺はもっと『ありがとう』って言いたい。
「ありがとう。マジでありがとう」
「兄貴どうしたの?頭のネジ吹っ飛んでありがとうしか言えなくなった?」
常に状態キープな毒舌も、今なら笑って返せた。志乃は少し笑みを浮かべていたが、それは本当の笑顔では無いと俺は知っている。昔の志乃は太陽のように明るい笑顔を周囲に振り撒いていたんだから。
俺はその志乃の笑顔を取り戻したい。志乃が作ってくれたきっかけの中で。そのためには、俺と志乃の特徴を合わせた一つの作品を仕上げないといけない。
でもこれは義務じゃない。『やりたいこと』だ。
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