第九章
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葉に対して頷きそのままそこから姿を消すアイアネアースだった。ヘクトールは剣を手に戦いギリシアの兵達を寄せ付けない。そうしてトロイアの者達を少しでも多く逃がすのだった。目の前に天にまで届かんばかりの紅蓮の炎を見ながら。祖国を焼き尽くさんとするその炎を。
カサンドラはイオラトステスと共にトロイアの中を逃げ惑っていた。その間多くのギリシアの兵達に襲われたがその度にイオラトステスの剣が煌き彼等を退ける。そうして遂にトロイアの城壁のところにまで来た。
「ここからです」
「ここから?」
「そうです。ここから飛び降りれば助かります」
イオラトステスは必死に駆けながら後ろにいるカサンドラに対して声をかけた。右手に血塗られた剣を持ち左手で彼女の手を掴んでいる。何としても離すまいとこれ以上になく強く握っている。
「ですから」
「けれどトロイアの高い城壁は」
「御安心下さい」
彼は言うのだった。
「その場所は下は川になっていますから」
「川!?ではあそこですね」
「そうです。あそこです」
トロイアの者ならばこれでわかることだった。街のすぐ側を流れているその川なのだ。トロイアの者達の水瓶にもなっていた川だ。
「あそこなら飛び降りても」
「それでは。今から」
「はい、もうすぐです」
また答えるイオラトステスだった。
「ですから。宜しいですね」
「ええ。それでは」
カサンドラもまた必死に駆けながらイオラトステスの言葉に頷く。しかしだった。
前と後ろからギリシアの兵達が現われた。あともう少しというところで。
「待て!」
「降伏せよ!」
彼等は口々に叫びながら二人に迫る。その手に持っている剣や槍は城を焦がす炎により朱に映し出されている。身に着けている鎧や兜も真っ赤になっている。
「そうすれば命は取らぬ」
「だが」
「イオラトステス・・・・・・」
カサンドラは彼等が自分達に迫るのを見て顔を蒼白にさせた。ここまで来て、そうした思いもあり絶望に心を支配させていった。
「もう。これで」
「いえ、ご案じなさいますな」
しかしここでイオラトステスはこう言うのであった。
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