第八章
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禁物ですか」
「我等だけでも備えを解くな」
ヘクトールは側近達に告げた。
「いざという時にはだ。よいな」
「はっ、それでは」
「そのように」
「そういうことだ。それではな」
「わかりました」
こうしてヘクトールの側近達と兵達は危急に備えることにした。トロイアとギリシアの講和は滞りなく結ばれギリシア側からまず多くの貢物を贈ることになった。その中にこれ以上はないという程の大きな木馬があるのを見てカサンドラはその整った顔を蒼白にさせた。
「やはり・・・・・・木馬が」
「仰る通りですね」
しかし彼女の横でこう言う者がいた。
「カサンドラ様の」
「えっ!?」
「カサンドラの仰る通りですね。やはり」
「貴方は確か」
その若い士官の顔には見覚えがあった。あの時ヘクトールとアキレウスの一騎打ちではなくパリスがすべきと進言したあの士官だ。その名は。
「イオラトステスです」
謹んで礼を述べたうえでの言葉だった。
「以後お見知りおきを」
「イオラトステスですね」
「はい、そうです」
「わかりました。それで」
カサンドラはあらためて彼に声をかけた。
「貴方はあの木馬をどう思われますか?」
「カサンドラ様と同じです」
木馬を見上げながら答えるイオラトステスだった。
「やはりあの木馬は」
「そうですか。貴方は」
「私は。信じます」
彼の方から言ってきた。
「カサンドラ様の御言葉を」
「えっ!?」
「信じています」
こう言うのである。
「貴女の予言を。必ず当たるのだと」
「貴方は・・・・・・まさか」
ここに来てようやく出会えたことがわかった。彼こそはこの世でただ一人自分の予言を信じてくれる者だったのだ。それはトロイアにいたのだ。カサンドラは今このことを知り喜びを感じずにはいられなかった。
しかしであった。もう木馬はトロイアの中に入ってしまっている。皆それを貢物だと思い早速宴の用意をはじめている。危機は目前に迫っていた。
「けれど・・・・・・もう」
「既に私の兵達は持ち場に着かせています」
だがここでイオラトステスはこう彼女に話したのだった。
「何が起ころうとも。御安心下さい」
「何が起ころうともですか」
「そうです。せめてトロイアの者達だけは」
強い声での言葉だった。
「救いましょう。何があっても」
「・・・・・・はい」
少しだけ明るい顔で頷くことができた。最早トロイアの滅亡は避けられないことはわかっていた。だがそれでもトロイアの者達だけは。彼女はそこに希望を見出せるようになっていたのだ。
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