第三章
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て愚かではない。彼もまた一つ提案を出して来た。
「彼女には指一本触れません」
「指一本か」
「今までもそうでした」
不思議な所で道理を守る男ではある。
「ですからこれからも」
「そのうえでの妻か」
「これならどうでしょうか」
あらためて兄に対して問う。優美な外見の己とは違い長身で逞しく雄々しい美貌を持つ兄に対して。へクトールはトロイアの次の王であると共にトロイアきっての英雄なのである。
「彼女には一切何もせずトロイアの賓客として扱うということで」
「ならばそうするがいい」
これ以上の説得は無理だと悟ったヘクトールはこう弟に告げた。
「それで御前が満足するのならな」
「有り難き御言葉」
「だが。彼女が何かわかっているな」
「ギリシア一の美女です」
パリスはこう答えた。だがもう一つのこともわかっていた。
「そしてスパルタの王妃です」
「スパルタ王はギリシアの盟主アガメムノンの弟」
スパルタはこの頃からギリシアきっての尚武の国だったがそれだけではないのだ。王はギリシアの盟主アガメムノンの弟でありそれに。
「そしてギリシアがヘレネに対しての誓いがある」
これはパリスには聞こえないようにして呟いた。
「戦争になるか。ギリシアとの」
彼はそのことを覚悟した。カサンドラの予言を信じてはいなかったが。そしてカサンドラの予言も彼の危惧も当たることになった。トロイアにギリシアの大軍が押し寄せて来たのだ。
「来た、やはり」
カサンドラはトロイアの高い城壁の上からギリシアの大軍を見て呟く。大地を埋め尽くさんばかりのその大軍はそこに見えるだけで全てを圧してしまいそうだった。
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